プロローグ

私は知っている。

本当の優しい人は、迷惑のかからないように、心配させないように、嘘をつく。

そして最期は、これが正解だったのだろうかと不安になりながら、この世界から泡沫となって消えてゆく。

誰かのために嘘をつくことは、悪い事ではないのだろうけれど、結果その人が傷つく運命になるのなら、

私はそんなの絶対に嫌だ。

あなたが私にしてくれたように、私もあなたを救いたい。

今、あなたは何をしていますか。たとえ私を忘れてしまっていても、私が覚えているから――。


雪が降っている。先の見えない青い空から、白い妖精が舞い降りて季節を彩りに来ている。
吐いた息は白く、視界をぼやかせてはやんわりと姿を消してゆく。
いつもより視界が地面と距離が近く、懐かしい情景が広がっている。
ザクザクと雪の上を歩く足音が何も聞こえない辺りを変え、凍え震えるこの手を握った。
大きな手。優しく温かい。長い腕を辿って見上げると、そこにキミがいる。
大好きだった。また、何処かで出会えるかな。伝えたい事、沢山あるんだけどな。
でも、キミは十年経っても会いに来てはくれなかった。あの人は、何と言う名前だったっけ。雪が溶けるまで、傍に居てくれた大切な人。
風花だったあの日が、一番印象に残っている。私に小さな花の付いた指輪をくれた。何十年経っても何故か錆びない不思議な指輪。光に当てると花の真ん中にある宝石が眩しいくらいに輝いて、またあの人に会える、そう教えてくれるような気持ちになる。
声も、顔も、名前も忘れてしまったけれど、また逢いたいな―。