――――彼は胸を穿《うが》たれて。対峙《たいじ》する少女の小さな手が、その心臓を鷲掴《わしづか》みにする。
「あはははは! どうやら私の勝ちみたいだね、お兄ちゃん!」
「ケケケケ! ざまぁねぇなぁ、勇者サマよぉ?」
楽しそうに笑う少女。その傍《かたわ》らでパタパタと羽ばたく使い魔が嘲《あざけ》りの言葉を投げた。
そこは広大なダンジョンの再深部。床から天井まで全てが、呪詛《じゅそ》を湛《たた》えて真っ黒に染まった骨で構築された異形の迷宮の最奥《さいおう》。
少女は黒のワンピースを身に纏《まと》い、白銀の髪を腰まで伸ばしていた。人懐っこい瞳で相対する少年の顔を見つめて。その瞳は血のように赤く、仄《ほの》かに光を放っている。
その傍《かたわ》らを旋回している使い魔は獣の頭蓋骨を被ったカラスのような魔物で、額に第3の瞳があった。
最凶の魔宮の1つに数えられるこのダンジョンの支配者である少女【黒骨の魔王】ネバロ・キクカ。彼女は恍惚《こうこつ》とした表情でその手の中の肉塊を玩《もてあそ》ぶ。その様子を|嬉々《きき》として見つめる使い魔アムドゥス。
ぎゅっと心臓を握り締められ、少年――ディアスの顔が苦悶《くもん》に歪んだ。灰色の髪と暗い色の瞳を持つ彼は真っ白な外套《がいとう》を身に纏《まと》っている。
ディアスの両手に握られていた剣がその手から滑り落ちた。同時に彼の周囲に浮かんでいた大小合わせて8本の剣も乾いた音を響かせて落下する。
ネバロはディアスの胸から手を引き抜いた。次《つ》いで真っ赤に染まった手をペロっと舐める。
「ケケケ。どうした? 戦意喪失かぁ? お? お?」
「アムドゥス、あんまり苛《いじ》めちゃ可哀想だよ」
ディアスを煽《あお》るアムドゥス。それをネバロはたしなめるが、アムドゥスは意地の悪い笑みを浮かべたままディアスのもとへ。次《つ》いでバサバサと翼を羽《は》ばたかせながらディアスの顔を覗き込む。
見上げた先にはみるみる生気を失っていく少年の顔。
――――だが、その瞳は未だに光を失ってはいなかった。 ギリっと歯ぎしりの音。そして振り絞るようにディアスは叫ぶ。
「『|ソード・テンペスト《その刃、暴虐の嵐となりて》』…………‼️」
彼に呼応《こおう》して舞い上がる10の剣。迸《ほとばし》る閃光。輝く剣はディアスの周囲を高速旋回し、周囲一帯を斬り刻む。
「あわわわわわっ!」
迫り来る刃を前に、慌てて飛び退《の》くアムドゥス。
「あはっ」
ネバロが嬉しそうに笑う。その顔が、狂喜に歪む。と同時に彼女は後ろに跳んで。
「阻《はば》め『|スナーグル・ディマイズ《呪われし骨、優しく抱いて》』」
ネバロの呟きと共に床が隆起《りゅうき》。黒い骨がより合わさって壁となり、ディアスの攻撃を防ぐ。だが剣の乱舞の勢いは衰えない。
ディアスは前へと踏み込んだ。
旋回する刃は行く手を阻《はば》む骨を刻むたびに、それらを魔力に変換していた。ディアスは旋回する剣の中から2つを手に取る。
「ソードアーツ――――」
ディアスはその剣に滾《たぎ》る魔力を解き放って。
「『|ブレイジング・クリーヴ《灼火は分かつ》』!」
剣身《けんしん》に灯る赫灼《かくしゃく》。荒々しく逆巻く灼熱の焔《ほむら》。振り抜かれた刃は紅蓮の一閃《いっせん》となった。
その一閃《いっせん》と交差するように暗黒の閃《ひらめ》きが走る。
「ソードアーツ『|ダーク・リッパー《深き闇は裂きて》』‼️」
ディアスは振り抜いた剣をすかさず別な2本に持ち変えて。
「ソードアーツ『|ゲイル・スティングレイ《鋭き毒、刹那に疾る》』――――」
紫色《しいろ》の軌跡が尾を引く刺突《しとつ》。その突きが眼前の壁を貫くと、すかさずその腕に力を込めて壁へと体を引き寄せる。同時にもう一方の剣の柄を強く握りしめて。
「『|ライジング・ブレイド《刹那の閃き、天を衝かんと》』……!」
剣の切っ先が黒骨の床を走る。そして大きく弧《こ》を描いて振り上げられた斬撃。
続けざまに放たれたソードアーツがネバロの防御を打ち払った。四散する黒い凶骨《きょうこつ》。吹き飛ばされた黒骨の先にはネバロが嗤《わら》っている。
「……ごふっ」
ディアスの喉元をかけ上がる血潮《ちしお》。魔王を討たんとする激情とは裏腹に、その身体が冷たくなっていくのを──死が迫っているのを感じて。
だがディアスは止まらない。吐血しながらも歯を食いしばり、さらに一歩前へと踏み出した。
「あはははは! どうやら私の勝ちみたいだね、お兄ちゃん!」
「ケケケケ! ざまぁねぇなぁ、勇者サマよぉ?」
楽しそうに笑う少女。その傍《かたわ》らでパタパタと羽ばたく使い魔が嘲《あざけ》りの言葉を投げた。
そこは広大なダンジョンの再深部。床から天井まで全てが、呪詛《じゅそ》を湛《たた》えて真っ黒に染まった骨で構築された異形の迷宮の最奥《さいおう》。
少女は黒のワンピースを身に纏《まと》い、白銀の髪を腰まで伸ばしていた。人懐っこい瞳で相対する少年の顔を見つめて。その瞳は血のように赤く、仄《ほの》かに光を放っている。
その傍《かたわ》らを旋回している使い魔は獣の頭蓋骨を被ったカラスのような魔物で、額に第3の瞳があった。
最凶の魔宮の1つに数えられるこのダンジョンの支配者である少女【黒骨の魔王】ネバロ・キクカ。彼女は恍惚《こうこつ》とした表情でその手の中の肉塊を玩《もてあそ》ぶ。その様子を|嬉々《きき》として見つめる使い魔アムドゥス。
ぎゅっと心臓を握り締められ、少年――ディアスの顔が苦悶《くもん》に歪んだ。灰色の髪と暗い色の瞳を持つ彼は真っ白な外套《がいとう》を身に纏《まと》っている。
ディアスの両手に握られていた剣がその手から滑り落ちた。同時に彼の周囲に浮かんでいた大小合わせて8本の剣も乾いた音を響かせて落下する。
ネバロはディアスの胸から手を引き抜いた。次《つ》いで真っ赤に染まった手をペロっと舐める。
「ケケケ。どうした? 戦意喪失かぁ? お? お?」
「アムドゥス、あんまり苛《いじ》めちゃ可哀想だよ」
ディアスを煽《あお》るアムドゥス。それをネバロはたしなめるが、アムドゥスは意地の悪い笑みを浮かべたままディアスのもとへ。次《つ》いでバサバサと翼を羽《は》ばたかせながらディアスの顔を覗き込む。
見上げた先にはみるみる生気を失っていく少年の顔。
――――だが、その瞳は未だに光を失ってはいなかった。 ギリっと歯ぎしりの音。そして振り絞るようにディアスは叫ぶ。
「『|ソード・テンペスト《その刃、暴虐の嵐となりて》』…………‼️」
彼に呼応《こおう》して舞い上がる10の剣。迸《ほとばし》る閃光。輝く剣はディアスの周囲を高速旋回し、周囲一帯を斬り刻む。
「あわわわわわっ!」
迫り来る刃を前に、慌てて飛び退《の》くアムドゥス。
「あはっ」
ネバロが嬉しそうに笑う。その顔が、狂喜に歪む。と同時に彼女は後ろに跳んで。
「阻《はば》め『|スナーグル・ディマイズ《呪われし骨、優しく抱いて》』」
ネバロの呟きと共に床が隆起《りゅうき》。黒い骨がより合わさって壁となり、ディアスの攻撃を防ぐ。だが剣の乱舞の勢いは衰えない。
ディアスは前へと踏み込んだ。
旋回する刃は行く手を阻《はば》む骨を刻むたびに、それらを魔力に変換していた。ディアスは旋回する剣の中から2つを手に取る。
「ソードアーツ――――」
ディアスはその剣に滾《たぎ》る魔力を解き放って。
「『|ブレイジング・クリーヴ《灼火は分かつ》』!」
剣身《けんしん》に灯る赫灼《かくしゃく》。荒々しく逆巻く灼熱の焔《ほむら》。振り抜かれた刃は紅蓮の一閃《いっせん》となった。
その一閃《いっせん》と交差するように暗黒の閃《ひらめ》きが走る。
「ソードアーツ『|ダーク・リッパー《深き闇は裂きて》』‼️」
ディアスは振り抜いた剣をすかさず別な2本に持ち変えて。
「ソードアーツ『|ゲイル・スティングレイ《鋭き毒、刹那に疾る》』――――」
紫色《しいろ》の軌跡が尾を引く刺突《しとつ》。その突きが眼前の壁を貫くと、すかさずその腕に力を込めて壁へと体を引き寄せる。同時にもう一方の剣の柄を強く握りしめて。
「『|ライジング・ブレイド《刹那の閃き、天を衝かんと》』……!」
剣の切っ先が黒骨の床を走る。そして大きく弧《こ》を描いて振り上げられた斬撃。
続けざまに放たれたソードアーツがネバロの防御を打ち払った。四散する黒い凶骨《きょうこつ》。吹き飛ばされた黒骨の先にはネバロが嗤《わら》っている。
「……ごふっ」
ディアスの喉元をかけ上がる血潮《ちしお》。魔王を討たんとする激情とは裏腹に、その身体が冷たくなっていくのを──死が迫っているのを感じて。
だがディアスは止まらない。吐血しながらも歯を食いしばり、さらに一歩前へと踏み出した。