突然の事だった。
私は異世界へ召喚された。
どうしてこうなったのか。少し時間を巻き戻してみよう。
私は立花。普通の会社員だ。そして、特出した才能もなく、ただ真面目なだけが取り柄の万年平社員だ。
いつも通り会社に行く途中、普段は気にも留めないような路地が、やけに気になり覗いてみると地面の一部が光っていた。
私は不思議に思いその地面に近づいてみた。
ビルとビルの間にあるその路地には太陽の光が差し込むわけもなく、どうしてこの地面が光っているのか私にはわからなかった。
私はおそるおそるその光る地面を踏んでみた。
すると次の瞬間にはここにいた。
私の目の前には、服を着たガイコツと、赤鬼がいた。
彼らは私にお辞儀をすると、「ようこそ、髑髏町ダンジョンへ!」と言った。
私は訳が分からずただ呆然と彼らを眺めていた。
それに気が付いたのか、服を着たガイコツは自己紹介を始めた。
「突然召喚してしまってすみません。わたくしが、この髑髏町ダンジョンの総支配人こと、社長のゼファー=スカル=マジェスティと申します。皆からは【スカルさん】と呼ばれております。以後お見知りおきを」
バイクの名前とバイクの名前の間に、取ってつけたように英語でガイコツと言ってくるあたり、ネーミングセンスに異世界を感じた。
次に赤鬼が自己紹介を始めた。
「わしはこのダンジョンのラスボス。通称【赤鬼】こと、赤鬼瓦権蔵と申す。以後よろしく」
見た目でついたのか、名前からとったのかわからない異名だが、確かにデカくて強そうだった。
名は体を表すとはまさにこのことだろう。
そして、スカルさんは私に手でジェスチャーしながら、お前も自己紹介しろと促してくる。
若干腹が立つが、仕方がなく私は自己紹介をした。
「え?ああ、私は立花です。会社員です」
「お待ちしておりました。モブキャラ……失礼、立花様。今回あなた様を召喚いたしましたのは、他でもありません。このダンジョンを再興してほしいのです」
どんな間違え方だ。確かに私はぱっと見……というか中身もモブキャラそのものだが。
それにしても、このダンジョンを再興してほしいとはどういうことなのだろうか?
「すみません。全く状況が把握できないのですが、どういうことでしょうか?」
「ははは、すみません。軽く状況を説明いたしますね。説明フリップカモン!」
スカルさんがそういうと、奥の部屋からフリップを持った美少女が現れた。
彼女は少し青みがかったきれいな髪とかなり整った顔立ち、そしてゴスロリのようなドレスを着ていた。
が、目がこれでもかというほど死んでいた。
私は2つの意味でドキッとしてしまった。
おほんとスカルさんが咳払いをしてから、フリップを持ち説明を始めた。
「この髑髏町ダンジョンは、創立から300年と由緒あるダンジョンでございます。過去にはあの大勇者【ああああ】の攻略も阻んだという難攻不落のダンジョンでございます。」
大勇者の両親はきっと名前を付けるのがめんどくさかったのだろう。
おそらく名前をつける際にAボタンを連打し続けていたはずだ。
「しかし!このダンジョンは今や過去の輝きを失っております。今では挑戦者の数も少なく、売り上げは落ち込む一方。そんな危機を打ち払うべく今回召喚されたのが、立花様、あなたでございます!」
そう言ってスカルさんはビシっと私に指をさした。
私は驚きと意味不明な状況を前に、何も言えなくなってしまった。
というか、万年平社員で絵にかいたようなモブキャラの私に、ダンジョンの再興などできるわけがない。
ここはしっかり断って元の世界へ帰らせてもらおう。
「あの……盛り上がっているところ申し訳ないのですが、私はダンジョンの事など全くわからない素人です。おそらく召喚する相手を間違えたのではないでしょうか?悪いですが、元の世界に帰らせてください」
「あ?」
赤鬼が今までの笑顔ではなく、まさしく鬼の形相になった。
「おい、にーちゃん。ここまで来て、何もしないで帰るってのか?あ?」
「……すみません」
めっちゃ怖い。さすがラスボスだ。
再びスカルさんが、おほんと咳払いをした。
「脅してしまってすみません。しかし、我々も必死なのです。このダンジョンに古くから伝わる、大勇者【ああああ】が残した宝剣を質に流し、そのお金を元手に何とかあなた様を召還したのです。急なことで大変恐縮ですが、立花様のお力を貸していただけないでしょうか?どうかよろしくお願いいたします。」
スカルさんは深々と頭を下げてくる。
ここまで頼まれるとさすがに何もしないで帰るというのは気が引ける。
私が考えこんでいると、フリップを持ってきた死んだ目の美少女が口を開いた。
「ていうかさ、無理って言っても元の世界にもどるお金なくない?」
その場が凍りつく。
私は恐る恐る尋ねた。
「え?どういうことですか」
スカルさんが頭蓋骨を右手で掻きながら、
「そうなんです。再転位しようにもお返しするお金は我がダンジョンにはありません♡」
と照れたように言った。
なんてことだ。勝手に召喚した挙句、戻すことができないとは。ってことは初めから帰らせる気がないじゃないか!
「ちょ、ちょっと待ってください!それはあんまりじゃないですか!」
「いやー、召喚したら二つ返事でOKしてくれると週刊誌で読んだものですから」
「せめて、分厚い古書とかで読んでいてください!」
それにしても困った。そんな大金この世界にも、元の世界にもない。
だがしかし、こちらの世界でお金を貯めれば帰れるということではないだろうか?
「あの……ちなみに、再転位するにはいくら必要なんですか?」
死んだ目の美少女は無表情で答える。
「1000万」
「え?」
「2回も言わせんなよ。1000万だよ」
「あの……この世界の平均月収っていくらですか?」
「15万」
「はい?」
「だから!2回も言わせんなよ!15万だよ!」
私は目の前が真っ暗になった。単純計算でも6~70年かかる。
まだ結婚も、というか恋人すらできたことがないのに、こんな訳の分からない世界で年老いていかなくてはならないのか?
「スカルさん。ちなみにですが、私がこのダンジョンで働いたとして、月いくらいただけるのでしょうか?」
スカルさんはジャケットの内ポケットから算盤を取り出しパチパチ計算し始めた。
「ん~基本的には歩合制なんですけれども、……10万くらい?」
「お疲れ様でした~」
私は外に出ようとした。
スカルさんは慌てて私を呼び止めた。
「わかりました!15万は固定で差し上げます!だからどうか、このダンジョンを救ってください!」
「ちなみに、歩合制とのことでしたが、15万+歩合ということでよろしいんですよね?ね!」
「……わかりました。その条件でお願いいたします……」
スカルさんは力なく答えた。
こうして私はこの髑髏町ダンジョンを救うこととなったのだ。
私は異世界へ召喚された。
どうしてこうなったのか。少し時間を巻き戻してみよう。
私は立花。普通の会社員だ。そして、特出した才能もなく、ただ真面目なだけが取り柄の万年平社員だ。
いつも通り会社に行く途中、普段は気にも留めないような路地が、やけに気になり覗いてみると地面の一部が光っていた。
私は不思議に思いその地面に近づいてみた。
ビルとビルの間にあるその路地には太陽の光が差し込むわけもなく、どうしてこの地面が光っているのか私にはわからなかった。
私はおそるおそるその光る地面を踏んでみた。
すると次の瞬間にはここにいた。
私の目の前には、服を着たガイコツと、赤鬼がいた。
彼らは私にお辞儀をすると、「ようこそ、髑髏町ダンジョンへ!」と言った。
私は訳が分からずただ呆然と彼らを眺めていた。
それに気が付いたのか、服を着たガイコツは自己紹介を始めた。
「突然召喚してしまってすみません。わたくしが、この髑髏町ダンジョンの総支配人こと、社長のゼファー=スカル=マジェスティと申します。皆からは【スカルさん】と呼ばれております。以後お見知りおきを」
バイクの名前とバイクの名前の間に、取ってつけたように英語でガイコツと言ってくるあたり、ネーミングセンスに異世界を感じた。
次に赤鬼が自己紹介を始めた。
「わしはこのダンジョンのラスボス。通称【赤鬼】こと、赤鬼瓦権蔵と申す。以後よろしく」
見た目でついたのか、名前からとったのかわからない異名だが、確かにデカくて強そうだった。
名は体を表すとはまさにこのことだろう。
そして、スカルさんは私に手でジェスチャーしながら、お前も自己紹介しろと促してくる。
若干腹が立つが、仕方がなく私は自己紹介をした。
「え?ああ、私は立花です。会社員です」
「お待ちしておりました。モブキャラ……失礼、立花様。今回あなた様を召喚いたしましたのは、他でもありません。このダンジョンを再興してほしいのです」
どんな間違え方だ。確かに私はぱっと見……というか中身もモブキャラそのものだが。
それにしても、このダンジョンを再興してほしいとはどういうことなのだろうか?
「すみません。全く状況が把握できないのですが、どういうことでしょうか?」
「ははは、すみません。軽く状況を説明いたしますね。説明フリップカモン!」
スカルさんがそういうと、奥の部屋からフリップを持った美少女が現れた。
彼女は少し青みがかったきれいな髪とかなり整った顔立ち、そしてゴスロリのようなドレスを着ていた。
が、目がこれでもかというほど死んでいた。
私は2つの意味でドキッとしてしまった。
おほんとスカルさんが咳払いをしてから、フリップを持ち説明を始めた。
「この髑髏町ダンジョンは、創立から300年と由緒あるダンジョンでございます。過去にはあの大勇者【ああああ】の攻略も阻んだという難攻不落のダンジョンでございます。」
大勇者の両親はきっと名前を付けるのがめんどくさかったのだろう。
おそらく名前をつける際にAボタンを連打し続けていたはずだ。
「しかし!このダンジョンは今や過去の輝きを失っております。今では挑戦者の数も少なく、売り上げは落ち込む一方。そんな危機を打ち払うべく今回召喚されたのが、立花様、あなたでございます!」
そう言ってスカルさんはビシっと私に指をさした。
私は驚きと意味不明な状況を前に、何も言えなくなってしまった。
というか、万年平社員で絵にかいたようなモブキャラの私に、ダンジョンの再興などできるわけがない。
ここはしっかり断って元の世界へ帰らせてもらおう。
「あの……盛り上がっているところ申し訳ないのですが、私はダンジョンの事など全くわからない素人です。おそらく召喚する相手を間違えたのではないでしょうか?悪いですが、元の世界に帰らせてください」
「あ?」
赤鬼が今までの笑顔ではなく、まさしく鬼の形相になった。
「おい、にーちゃん。ここまで来て、何もしないで帰るってのか?あ?」
「……すみません」
めっちゃ怖い。さすがラスボスだ。
再びスカルさんが、おほんと咳払いをした。
「脅してしまってすみません。しかし、我々も必死なのです。このダンジョンに古くから伝わる、大勇者【ああああ】が残した宝剣を質に流し、そのお金を元手に何とかあなた様を召還したのです。急なことで大変恐縮ですが、立花様のお力を貸していただけないでしょうか?どうかよろしくお願いいたします。」
スカルさんは深々と頭を下げてくる。
ここまで頼まれるとさすがに何もしないで帰るというのは気が引ける。
私が考えこんでいると、フリップを持ってきた死んだ目の美少女が口を開いた。
「ていうかさ、無理って言っても元の世界にもどるお金なくない?」
その場が凍りつく。
私は恐る恐る尋ねた。
「え?どういうことですか」
スカルさんが頭蓋骨を右手で掻きながら、
「そうなんです。再転位しようにもお返しするお金は我がダンジョンにはありません♡」
と照れたように言った。
なんてことだ。勝手に召喚した挙句、戻すことができないとは。ってことは初めから帰らせる気がないじゃないか!
「ちょ、ちょっと待ってください!それはあんまりじゃないですか!」
「いやー、召喚したら二つ返事でOKしてくれると週刊誌で読んだものですから」
「せめて、分厚い古書とかで読んでいてください!」
それにしても困った。そんな大金この世界にも、元の世界にもない。
だがしかし、こちらの世界でお金を貯めれば帰れるということではないだろうか?
「あの……ちなみに、再転位するにはいくら必要なんですか?」
死んだ目の美少女は無表情で答える。
「1000万」
「え?」
「2回も言わせんなよ。1000万だよ」
「あの……この世界の平均月収っていくらですか?」
「15万」
「はい?」
「だから!2回も言わせんなよ!15万だよ!」
私は目の前が真っ暗になった。単純計算でも6~70年かかる。
まだ結婚も、というか恋人すらできたことがないのに、こんな訳の分からない世界で年老いていかなくてはならないのか?
「スカルさん。ちなみにですが、私がこのダンジョンで働いたとして、月いくらいただけるのでしょうか?」
スカルさんはジャケットの内ポケットから算盤を取り出しパチパチ計算し始めた。
「ん~基本的には歩合制なんですけれども、……10万くらい?」
「お疲れ様でした~」
私は外に出ようとした。
スカルさんは慌てて私を呼び止めた。
「わかりました!15万は固定で差し上げます!だからどうか、このダンジョンを救ってください!」
「ちなみに、歩合制とのことでしたが、15万+歩合ということでよろしいんですよね?ね!」
「……わかりました。その条件でお願いいたします……」
スカルさんは力なく答えた。
こうして私はこの髑髏町ダンジョンを救うこととなったのだ。