これが俺の日常

 黒板を消そうと背伸びをしている女子生徒。
 その女子は身長が小さいため、上の方が届いていない。

 俺はその女子生徒から黒板消しを借りて、上の方を消してあげた。

「あ、牧野君。ありがとう」

「どういたしまして。上の方は俺が消すから」

 俺はそう言って、上の方を全て消した。
 
 あともう少しで黒板が全部綺麗になりそうだなぁ。上だけじゃなくて、ほかも全て消そうかな。

「あ、そこは私が……」

「大丈夫、ついでだから消すね。君は手を洗ってきていいよ。白くなってるから」

 そんなにオドオドしなくてもいいのに。
 女子生徒にそう言うと、小さく頷き教室を出ていった。

 よし、残りを消してしまおうか───




 綺麗になった黒板っていいなぁ。あぁ、でもその代償として手が白くなっちゃった。洗わないと。

 教室を出て廊下を歩いていると、後ろからいきなり誰かが突進してきた。

 えっ、いきなり誰。普通に痛いよ。

「よぉ!!! また男前発揮してんじゃねぇか!! 1人だけずるいぞ優夏《ゆか》」

「痛いよ靖弥《せいや》」

 後ろを振り向こうとすると、突進してきた彼が笑顔で俺と肩を組み始めた。友人の靖弥だ。

 ピアスに茶髪と、校則違反ばかりの服装のため、見た目だけなら不良なのではないかと思ってしまう。

「お前、またそんなダサい格好してんのかよ」

「これが正しい制服の着方だよ」

 ダサい格好じゃないと思うんだけど。それに、俺の名前は牧野優夏《まきのゆか》だよ。お前って名前じゃない。まぁいいけど。
 それに、俺の格好は校則に忠実に従った結果だよ。あとはそうだね……。ワンポイントとして、赤い眼鏡をかけている。
 目が悪いからかけるしか道はないんだけどさ。コンタクトは怖いし。

「お前見た目いいんだからさ、もっとオシャレしようぜ!!!」

「ありがとう。でも、遠慮しとくよ」

 見た目良いなんて、照れちゃうじゃん。ありがとう。でも、やめておくよごめんね。
 オシャレしてもあまり意味ないと思うし。

 俺が断ると、靖弥は「遠慮すんのかよ!!」と言い、そのままどこかに行ってしまった。

 俺も教室に戻ろうと廊下を歩いていると、床に紙ゴミが落ちているのが目に入った。なので、ゴミ箱に捨てようと拾い上げる。
 そのあとも、沢山の荷物を持っている人がいたので手伝ったり、掲示板に貼っているポスターが剥がれそうになっていたので、それを直したりしながら廊下を歩いていた。

 時計を確認すると、あともう少しで授業が始まる時間になっていた。

「やばっ。急がないと遅刻する」

 廊下を走るのは危ないため、俺は走らない程度に急いで教室に向かった。だが、その中で気になる人がいたため足を止めてしまった。

「…………なんでこんなところに居るの靖弥。いきなり居なくなったと思ったら。そっちは教室じゃないよ」
 
 なんで靖弥が玄関に向かう廊下を歩いているのか。しかも、俺に見つかったからなのか、バツが悪そうな顔をうかべた。またサボりかな。

「授業出ないとダメだよ。毎回言ってるけどさ」

「出たところで俺みてぇな馬鹿にはわかんねぇーし」

 それは真面目に勉強してないからではないか。

「でも、サボりはダメだよ。授業出ようよ」

「いいか優夏。俺は今、外に出たいんだ。分かるな」

「え、いきなりどうしたの。道的にわかるけどさ」

 話し方どした?

「俺は先生の授業より、お前に後で教えてもらった方が分かりやすい。お前教えるのうめぇから」

「ありがとう。でも、それとこれとじゃ話がちが──」

「つまり!! 授業に出ることは俺のためにはならねぇけど、このあと、お前が俺にノートを写させる。そして、補足説明。これの方が俺のためになる!!!」

 靖弥の──ため。

「──わかった。これが靖弥のためになるなら、俺は何も言わない。俺は何も見てないし、何も聞いてない」

「そうだ。優夏は何も見てないし、俺がどこに行こうと俺のために目をつぶる。いいな」

「靖弥のためになるなら、俺は目をつぶるよ」

 よし、話が纏まったし、俺は教室に戻ろう。急がないと本当に授業に間に合わない。

「少し、優夏が心配になるわ。俺」

「え、なんで」

 なんか、心配されたけど、今は気にしている時間ないので、俺はそのまま教室へと早歩きで向かった。




 これが俺にとっての当たり前で、日常だ。でも、友達の靖弥からは「お人好しすぎるとそのうち痛い目見るぞ。あと、俺が心配になる」と何度も釘を刺されている。

「そんなこと言われてもなぁ」

 これが俺にとっての当たり前だから、なんと言われようとも変える気はないし、変えられない。

「それでも俺は、人のために動きたい。それが、自分のためになるって知ってるから」