序章 《ice》

希望とは光の点である。ひとつまたひとつと点が消え、全ての光を失った後に残る完全な闇───絶望とはそれの事だ。それ故、希望は有限で儚い。それ故、絶望は無限で美しい。

「───たす、けて」

死臭で満たされた広間には、|少女《わたし》にとってどうしようも無い絶望が広がっていた。掠れる声で穴だらけになった男の死体に助けを乞うが、そんなのは安い希望に縋る現実逃避に過ぎない。

強烈な血と火薬の匂いが五感を覚醒させ、虚ろになる度に意識は再びこの風景へと引き摺り戻される。恐怖で喉は痙攣し、銃弾がぶちまけた臓物の異臭も相まって胃の中身を全て吐き出しそうだ。

吐息一つさえ躊躇う程の緊迫感の中、酸素供給の間に合わない脳が今度こそ朦朧としたその時、人を殺めた屈強な右手に肩を乱暴に掴まれ、そして───

「───ッ!」

ここは世界の中心、群青魔法都市。若者の憧れの地 《サブリエ》。希望が溢れるこの町において、私達はゴミだった。