第14話

 私はそれから暫く軒さんと電話をした。どうやらバックアップというシステムは、亡くなった人が生前過ごしていた記録の集合体だという事。バックアップにアクセスした人間はその亡くなった人の身体を借りて記録の中へと入る機構だという事。
 ややこしいのだが、それが起こるため私は今日から桜野美香という別人になりきる必要があるという事が分かった。
 また、バックアップの存在はバックアップ上に居る人間には原則話す事は禁止されているという事。もし話すと、バックアップ上でバックアップを知った人間が増えデータが崩壊する可能性があるらしいのだ。
 但し、これは原則ではあるので、任務を遂行する上でやむを得ない場合はバックアップの存在を明かしても良いとの事だった。しかし、バックアップの存在を明かす場合は事前に軒さんに確認を取る必要があるとの事。色々と制約が出るが、それ以外は普段通りに生活しても良いとの事だった。
 私はいつぶりに着るのか分からない制服を着て、顔を洗って外へ出た。すっぴんで外へ出れるのは何年ぶりだろうなんて事を思いながら、スマートフォンに示された高校へと向かう事となった。
 流石に耳に当てて電話しながら通学するのは周りの目もあるので、イヤホンを繋いで軒さんの声を聞く。
「桜野美香について、もう少し補足しておきます。桜野美香は今日から高校二年生になります。高校名は小野浦高校で、クラスは七クラスに所属しています」
「もう少し詳しい情報とか無いですか? 桜野さんの性格とか」
「バックアップにはプライバシー保護の観点から必要以上のプロフィールを教える事は出来ません。というより、我々も桜野美香の性格などの情報は持っていないんです」
「じゃあ、クラスではどう振舞ったらいいんですか」
「今日で学年が一つ上がってクラスも変わります。小野浦高校は全部で十クラスもあるマンモス学校なので、クラス替えで大きくクラスメイトも大きく変わっているはずです。ですので、大葉さんらしく普段通りに振舞ってもそんなに問題は無いかと思います」
「リスキーですよ、そんなの。前のクラスメイトが何人かいるかもしれないじゃないですか。一年生の時と雰囲気が大きく変わってたら、色々疑われますよ」
「その辺りも大丈夫かと思います。桜野さんは高校生です。思春期真っただ中の十代がクラスが変わった事を理由に心機一転クラスでのキャラを変える事など、良くある事だと思いますので」
 軒さんは淡々と怖い事を言い出すなと内心思った。確かに、高校デビューという言葉がある様に、十代の子たちは環境が大きく変わった時、性格も大きく変わる事がある。しかし、今私が身体をお借りしている桜野さんはそんな事が無いタイプかもしれない。それがゼロではないと思うと心臓が締め付けられるような感覚に襲われた。