第15話

 小野浦高校は二年前に全面改装が掛かった綺麗な高校だった。私は校門へ入っていく高校生の姿にびくつきながら同じ方向へと向かった。
「流石にこれはビビる……」
 周りにいるのは現役の高校生たちだ。もう何年も前に卒業した私からすれば、この状況は異常だった。今日からいきなり桜野美香を演じなければならない。私は今日から高校生だ。
 周りの高校生たちの流れに身を任せて私は何とか下駄箱まで辿り着くことが出来た。今日は新学期初日という事もあって上靴は持ってきている。わざわざ自分の場所を探す必要が無いのが唯一の救いだった。
「二-七は……」
 私は必死に七クラスを探した。私は上靴の色を見て判断する事にした。どうやら、学年によって色が分かれているのだ。廊下に溢れている生徒の靴の色と私が持ってきている色を見比べた。私の上靴は「青色」だった。
 同じ青色の生徒が向かっているのは西棟と呼ばれる下駄箱から向かって左側の棟のようだった。私はビクビクしながら西棟に向かう事にした。

 かなりの遠回りをしたが、私は何とか七クラスに辿り着く事が出来た。教室の黒板に貼られている名簿を確認したが、確かに「桜野美香」の文字が印字されていて安心した。
「美香、おはよう!」
 私が指定された席に座って静かに存在感を消していると、そこへ私の肩を叩いて元気に挨拶を交わしてくる人物が現れた。
「お、おはよう」
 そこには私とは正反対のような明るくて、派手派手しいオーラを放った女子が立っていた。
「また同じクラスじゃん! よろしく!」
「よ、よろしくね」
 この子の名前が分からないのが最悪だった。その辺りの情報も軒さんから教えて貰えればとこの時ばかりは思った。ヘルプを軒さんに求めようとも思ったが、このタイミングでスマートフォンを取り出すのも不自然だった。
 しかしながら、本来の桜野美香が繋がっている友人関係と関わるのは難しいと考えた。というのも私は高校時代、教室の隅っこで本を読んでいたような人間だ。いくらバックアップという現実世界では無いものだったとしても、高校デビューなんて無理だ。
「はーい席につきなさい! ホームルーム始めるよ!」
 そうこうしていると、先生がやってきた。生徒も一斉に席について教室は一気に静まり返った。私は机の下でスマートフォンを開いて軒さんにメッセージを送った。
【最低限の交友関係とかの情報だけでも下さい!】
 すると軒さんからは予想外の回答が返ってきた。
【その前に、バックアップのチュートリアルを進めてください。緊急実態になった時の裏口の説明もしなければなりません。人間関係の構築よりも、まずは大葉さんの安全を確保するのが最優先です】