第18話

 私は無事に東棟三階の女子トイレに着いた。
「無事東棟三階の女子トイレ着きましたけど、ここのどこに裏口があるんですか?」
『奥から二番目の個室です。開けてみてください』
 軒さんはシンプルに意味不明な事を喋る。奥から二番目の個室は間違いなくトイレでしょうが。ここが現実世界との境界線だなんて誰が思いますか。
「そんな事ってあります……?」
「ハロー大葉さん」
 言われた通りに奥から二番目の個室を開けると、そこには軒さんが居た。しかも、トイレの内装は全くなく、ドアの向こうに広がっていた世界はデジタル・エレメンツ部門が置かれているSビルの部屋だった。
「ここがまず一つ目の裏口になります。気を付けて欲しいのが、ここから一歩でも出ると、貴方の身体は大葉志穂に戻ってしまうという事です」
「まるでシンデレラじゃないですか」
「良い例えです。これを私たちは『シンデレラ現象』と呼んでいます。くれぐれもご注意を。緊急時以外は絶対に使わないでくださいね」
「でもこの個室、他の人が開けたらどうなるんですか?」
「バックアップ内に住んでいる人間たちは所詮はデータです。ここのトイレはトイレとは認識しておらず、空白になっています。つまり、見えているのは大葉さんだけなのです」
「なるほど……」
 私は徐々にバックアップについて理解出来てきた。この世界はデータなのだ。私は桜野美香に|憑依《・・》して、このデータの世界に生きているのだ。
「徐々に理解出来てきましたか?」
「なんとなくですけど……」
「良かったです。その調子ですよ」
 軒さんはそう言うと、トイレの扉を閉めた。再びスマートフォンから軒さんの声がする。私はスマートフォンを耳に当てると、女子トイレを出た。
『次の場所にご案内します』