第19話

 軒さんから一通り裏口の説明を受けていると、あっという間に昼休みが終わってしまった。学校の中には計五つの裏口がある事が分かった。トイレや階段の踊り場にある鏡を見る度、私ではない桜野美香という女子高校生が映し出される事に違和感を感じながらも、私は何とか状況を理解しようと必死になった。
 ──この世界はデータ。一と〇から成り立つコンピュータ上の仮想世界。
 軒さんの言葉を要約すればこういう事だ。だが、データには見えないこの世界に私はまだ一定の恐怖心を覚えていた。
 あっという間に高校初日は終わり、私は家路につくことになった。地図アプリを開いて軒さんから貰った住所を打ち込む。桜野美香が住んでいる家が表示され、私は地図アプリを確認しながら家を目指した。
「た、ただいま……」
「あら、お帰り。新しいクラスどうだった?」
 桜野の母親が私を見るなり質問を投げかけてきた。新しいクラスも何も、全てが初めてである私はぎこちなく笑い、「まあまあかな」と答えるほかなかった。私は今朝起きた自分の部屋を目指し階段を上がった。
 桜野の部屋はとても綺麗な部屋だ。私はベッドに大の字になって寝っ転がった。
「一体これからどうすればいいの……?」
 私はある意味で絶望だった。高校の勉強はそもそも、どうやって高校生やっていたかどうか忘れていた。桜野の友達は|所謂《いわゆる》陽気で明るい、イケイケな友達だった。正直一緒にやっていける自信がない。
 ぼーっとしていると、家のインターホンが鳴った。桜野の母親が「はーい」と言って玄関を開けると「ちょっと待ってね」と言った。
「美香! お友達が来たわよ」
「友達……?」
 私は疑問に思いながら階段を駆け下りた。桜野の母親はニコニコしながら待っていた。そこには、小野浦高校の制服を着た女子生徒がこれまたニコニコしながら立っていた。
「どうも、桜野美香ちゃん!」
「はっはぁ……」
 知らない、こんな子。一体誰なのか。すると、桜野の母親は「ここだと何だから、中へ入って」と女子生徒を招き入れた。
「ちょっと待ってよ」
 私が困惑して断ろうとしていると、女子生徒は靴を脱いであがってきて、私の耳元でそっと呟いた。
「大葉志穂さんですよね。ここでは何ですし、桜野さんのお部屋で色々お話を」
「えっ……」
 何でこの人は私の正体を知っているのか。私は全身鳥肌が立つ感覚に襲われた。
「では、お構いなく~!」
 女子生徒は私の背中を押しながら桜野の母親にそういうと、階段を上り始めた。
「色々と驚いているとは思いますが、桜野さんのお母さんにお話聞かれるのもまずいですし」
「は、はぁ……」
 彼女は一体何者なのか。私は緊張しながら桜野の部屋に入ったのだった。