第4話

 チェーンで展開しているお安い居酒屋へ私と友里恵は入った。既に友里恵が予約してくれていたお陰ですんなり席に座る事が出来た。
 何滞りなく生ビールを頼むと、私と友里恵は大きくため息をついた。社会人の醍醐味の一つである、仕事終わりのため息である。
「なんか埃付いてるよ」
 突然、友里恵は私の頭を見ながら言った。私は渋い顔をしながら絶対に見えない自分の頭の上を見るつもりで上を向きながら埃を払った。絶対職場でついた埃だと思いながら、私はもう一度ため息をついた。
「何かツイて無いんだよね~。社会人になってから」
 私は不貞寝する勢いで頭を机に置いて言った。友里恵は事情を全く知らないので、そんな私を見て半笑いをする。
「何言ってんのー。一流大手企業に就職出来た人が言うセリフじゃ無いよー」
 友里恵は私よりも大学で優秀な子だった。だから私はいつも友里恵に勉強を教えて貰い、テスト前は夜中までファミレスに転がり込んで教えて貰っていた。そんな優秀な友里恵が大手ではなく、ベンチャーへ行くと言い出した時は正直驚いた。
 勝手な想像だが、友里恵がHF社を受けていたら間違いなくプロダクト開発部門行きだと思った。
 そんな秀才――友里恵だったが絶対に人を見下さず、気取らない性格がまた人気を博していた。きっと就職先のベンチャーでも人気者になっているのだろう。彼女の笑顔がそれを証明しているような気がした。
 そんな想像をしていると、中ジョッキが二つ来た。私は頭を起こして中ジョッキを持つと友里恵の音頭を待った。友里恵はジョッキを持つなりニコっと笑うと、拳を突き上げるかのようにジョッキを斜め上へ掲げながら
「乾杯ー!」
 と無邪気に言った。私も流石に乾杯は元気に言おうと思って明るい声で乾杯と言った。さて、こんなに明るい声を出したのはいつぶりだろうか。と思い返して怖くなったが、考えない事にした。
「んで、聞かせて貰おうか。悩み」
 ビールを一口飲むなり、悪戯をする前の子供のような表情をして友里恵は言った。
「げっ、バレてた?」
「バレてるわよ。だって、ずーっと暗いんだもん。分かりやすいよね、志穂は昔から。――隠し事出来ないタイプでしょ?」
 からかっているのか、真剣に聞こうと思っているのか、まるで分からない口調に調子が狂ったがまあ大学からの仲だ。私は意を決して友里恵に打ち明ける事にした。
「実はさ私、希望の部門に行けなかったんだ」
「プロダクト開発部門?」
「うん」
 私は何だか恥ずかしくなってビールを思い切り飲んだ。そのせいで中ジョッキに入っているビールが四分の三無くなってしまった。