第23話

 結局今日も存在感を消す事に意識を集中させたため、私は荒川さん以外誰とも話さずに終わった。
「あ、そうだ桜野さん」
 私は影を消して帰ろうとしていた時に、担任の先生に引き留められた。
「ちょっと職員室にいいかな」
「は、はい……」
 私は先生の後を追う形で廊下を歩いた。桜野は高校一年生の頃はどんな人間だったのだろうか。少なくとも私のような陰気な性格では無かったはずだ。登校初日に話しかけてきた女子生徒を見る辺り、相当明るい性格なのだろう。
「入って来なさい」
 先生は職員室の扉を開けると、私を手招きした。私は「失礼します」と遠慮がちに言いながら職員室に入る事となった。
 女性の先生だが、どこか男っぽい所がある先生だなと内心思いながらも、それを口に出せば怒られるだろうと思い、私は静かに呼吸した。
「単刀直入に聞くわ。貴方、一年生の頃にいじめに加担したでしょう?」
「えっ……」
 私は桜野美香ではなく大葉志穂として心の底から驚きの声を出した。桜野は今年の秋に自殺を図る女子生徒なのに、いじめをしていた側に居るなんて想像の範疇を超えてきたからだ。
「すっとぼけても無駄よ。色々目撃情報とか、入ってきてるんだから。貴方ね、二年生になったんだからここで改心しなさい」
「は、はぁ……」
「貴方が仕切っている女子グループの子たちも今後呼び出していくつもりだから、貴方がいじめを止めて、ここで改心してくれれば事態は良い方向に進展すると思っているの」
「分かりました。反省しています」
 私は先生に深々とお辞儀したのだった。だが桜野がいじめの主犯格だとして、何故自殺したのか、私には分からなかった。
「失礼しました」
 私は職員室を出ると頭の中で様々な思考を巡らせた。顎に手を当てて廊下を歩いていると、女子生徒の悲鳴が聞こえた。
「もう、やめてください!」
 私は反射的に身体が動いていた。声はワンフロア下から聞こえている。私は階段を駆け下って声のする方に急いで向かった。
 声がする所には、複数の女子生徒たちが居るのが分かった。女子トイレの前、あそこに違いない。私は走ってそこへ向かったのだった。
「あんた、生意気なのよねー。また、先生にチクったんでしょ」
「もう、お願いですから止めてください……」
 そこに広がっていたのは、無残に広がるいじめの光景だった。私は一瞬息が出来なくなる症状が身体に出たが、それを乗り越えて力いっぱいに叫んだ。
「あんたたち、何してるの!」