第5話

 私は洗いざらい全て友里恵に打ち明けた。友里恵は黙って聞いてくれていた。私はこの際プライドなど打ち捨てる覚悟だった。
「なるほどね。志穂のレベルの会社でもそんな事があんのねー」
 友里恵はビールを全て飲み干すと「プハァ!」と豪快に言った。私は正直言って真面目に聞いているのか、さっぱり分からなかった。いや、でも私の勝手な話を口を挟まずに聞いてくれる友里恵はその辺りにいる人達より間違いなく優しい。
「それ、上司に言ってみなよ」
「え?」
「だって、志穂はプロダクト開発部門が第一希望だって面接でも言ったんでしょ?」
「そう、だけど……」
「だったらそれを正直に言ってみなよ。だってHF社だよ? 社員数も万単位のメガ・カンパニーなら取り違えミスも否めないでしょ」
 友里恵は小規模なベンチャーに居るからこそ、大規模ならではの煩雑さに気づいたのかもしれない、と思った。確かにそれは一理あると心のどこかで納得していた。HF社は全世界に七万人の社員を抱える大会社だ。毎年、想像もつかない人数を採用しているのかもしれない。そう考えると、友里恵の言う通り私は誤った部門へ配属された可能性もあった。
「――確かに。友里恵の言う可能性もあるような気がしてきた」
「でしょ。だからさ、明日にでも上司に言ってみなって。きっと何か答えが得られるはずさ」

 結局、飲み会の大半は私の愚痴で終わってしまった。その事に終わってから気づき深く後悔したが、後の祭りだった。もうここまで来たら明日中野さんに聞いてみようと決意した。
 友里恵にこれだけ愚痴をこぼしておいて友里恵の言う通りにしなかったらそれこそ絶交級だと思った。私は飲み過ぎて真っすぐ歩けない身体に渇を入れながら、家路に着こうとした。
「あーあ……」
 酔っ払っているせいなのか、目から大粒の涙が零れた。酔っ払って泣くタイプでは無いはずなのに、友里恵と別れた夜道で私の目は涙で腫れあがっていた。今日の飲み会で今まで堪えていたものが湧き上がってきた。そんな気がした。
 初夏の時期と言えども夜は何だか寒かった。心も身体も冷え切っている気がして虚しくなった。せめて心だけでも温めくれる大切な人が近くに居れば――なんて雑念を振り払い私は一人重い足を動かし続けた。

――明日二日酔いになりませんように。
 私はささやかながらお星様に願いを込める。何か特別の日でもない、平日午後二十二時であった。