第8話

 私はHF社の最上階を目指す事となった。そこはどうやら一般の社員が立ち入れない領域らしく、中野さんから貰った許可証を使って入らなければならなかった。私はエレベーターの中で色々な考えを巡らせた。今まで行った事のない階数へ行く事へのドキドキ感と漠然とした不安。どちらが大きいかと聞かれたら、どちらも大きいと言いたい様な気持ちだ。
【最上階になります】
 エレベーターのアナウンスが階数ではなく「最上階」というワードを使ったのが斬新だなと思った。そのせいか、最上階フロアがより一層特別な空間である様に感じられた。エレベーターが開くとそこは薄暗い空間が延々と続くものだった。
「なに……これ」
 私はこの漠然として暗闇に取り残された。後ろのエレベーターが閉じ、すっかりそんな気持ちになった。すると、建物の柱が赤い光にライトアップされた。どうやらこのフロアに窓は無いようで、外光は一切入ってきていなかった。ここで唯一光を発しているのは柱を照らす赤い光という事だ。
「大葉志穂さん、ですね?」
 すると突然後ろから声を掛けられた。私は思わず大声を上げて驚いてしまった。一体どこから来たのかまるで分からない。分からなかったが、胸元に社員証がぶらさがっている事が確認出来た途端安心した。
「驚かせてすいません。私、デジタル・エレメンツ部長の神崎です。これから、色々とお世話になると思いますので、よろしくお願いいたします。あ、後これ社員証ね」
 神崎と名乗る男性から新しい社員証を貰った。黒縁メガネが似合う顔立ちであった。そこには
【デジタル・エレメンツ 大葉志穂】
 としっかりと印字されていた。私の人生は誰よりもジェットコースターなんじゃないかと思えた。入社して一か月で得体の知れない部署へ異動なんて事、聞いたことが無いのだから。
「それで、この部署の仕事っていうのは……」
「慌てないで。まだ、助手を紹介してないから」
 そういうと、エレベーターが開き、金髪長髪の女性が出てきた。
「助手の──軒です」
 まるでロボットのような話し方の軒さんに私は一瞬戸惑った。というよりも、タイミングよくエレベーターが開いた事の方がどういう仕掛けになっているのか、気になって仕方が無かった。そしてこの奇妙の二人だけで運営されているというのが、また疑問を呼んだ。
「改めまして、大葉志穂と申します。よ、宜しくお願い致します」
 私はよくわからなくなってしまったので、取り敢えず自己紹介をした。軒さんと神崎さんはそれぞれ「よろしくお願いいたします」と言ってくれた。