第一話 ハンバーガー

「ハンマーキャットぉ~?」
「ああ」
 俺は、ハンバーガーを飲み込みながら、目の前の男の顔をまじまじと見た。とてもまじめな男である。この男はそういう男だ。
「そんなのいんの?」
「いる」
 いんのか。俺は口を拭いた。
 ハンマーキャットは、最近になって王国中に広まり始めた都市伝説だ。
 尻尾がハンマーの形をした魔獣――らしい。
「都市伝説じゃねぇの」
「都市伝説じゃない。どこかの馬鹿が情報を漏らしてしまったせいで、都市伝説として広まってしまった、まさしくこの世に存在している魔獣だよ」
「へえ~……そいつを俺にどうしてほしいの?」
 男は言ったね。「殺せ」って。俺は嫌がったよ。
 当たり前だ。キュートは正義だ。
 多分キャットだから、そいつは可愛い。
 可愛いを殺したいと思うか? 思わないよな? そうなんだよな。うん。
「だから、嫌だ」
「報酬は弾むぞ」
 ――ドッサリ。
 テーブルの上に札束が落とされた。
「……まん?」
「ああ。『万』だ」
 心が揺らいじゃったよ。当たり前だ。お金も正義だからな。
「かといって、魔獣とはいえなあ……にゃんこを殺すのはなあ」
「そんなに嫌か? さんざん魔獣を殺しておいて」
「狩人だって、心を痛めるんだよ。ばーか」
「そうか」
 男は俯いてしまった。
 そうだ、と俺は頷いた。しばらくして、男は眼鏡を取って、掻き上げていた髪を全ておろして、肩の力を抜いた。そうすると、こいつの顔は元の女顔もあってか、色のある女性のようになった。
「僕を売るしかないか」
「残念だけど、無理なものは無理だ」
 俺は判断力が鈍るよりも早く拒否した。野郎を飼って何を知ろと、という話だが。腎臓を売れば金にはなるかもしれない。しかし、俺も人間だ。そんなことできない。
「他を当たってくれないかな。猫を殺すのは見苦しい」
「そうか……。ならしょうがない。他を当たるよ」
「そうしてくれるとありがたい」
 男は札束の半分を残して、店を出ていった。
 この金は? 俺ちゃんお金に困ってるからとっちゃうよ~?
 ……なんてな。

「へい、店長!」
「なんだ~? クソボウズ」
「この金、預かっといて! あとで持ち主連れてくっから!」
「おう、まかせとけ」
「あと、ごちそうさん!」
「気ィ付けて帰れな~」
「おう!」