最期の夢

 ここは何処だろう。僕は不思議な場所に立っていた。眼の前に椅子とテーブルが置いてあった。

 それ以外には何も無い。壁も無く床も無い。ただ周りが真っ黒い空間で包まれているだけだ。

 僕の言葉ではうまくこの世界を表現できない。でも、この世界が何なのかは理解できた。

  寝ている時の頭の中にある世界。そう、これは自分自身の夢だ。

  普段は夢を見ている時はそれが夢であると自覚出来ないのものだけれど、今回だけははっきりと自分が夢を見ている、と自覚できた。

  僕は椅子に座る。テーブルの上にはいつの間にかコーヒーが入ったポットと受け皿がついたカップが置いてあった。

  僕はポットを手に取り、カップの中に注ぐ。そしてゆっくりとコップを口に運び、黒い液体を啜る。苦味が口の中に広がる。砂糖とクリームが少し欲しいな、と思った。

  「よう」

  そう声を掛けられて僕は顔を挙げる。何処から現れたのか、テーブルの前に男がいた。

  「ここが何処だか分るか?」

  夢の中だろう。

  「そうだ。そして最期の夢だ」