3話 出会い

門をくぐった先は、空は薄暗くよどみ、大地は土肌が見え周囲にもあまり緑はなく枯れているといった印象をリオンに与えた。
それは記憶の中の風景と大きな乖離は感じなかったので一瞬、本当に千年後の世界なのか分からなくなりかけた。
「千年といってもあんまり変わらないんだな」


自分の戦いの無意味さに一抹の寂寥感を覚えながら、荒れ地の向こうに視線を送ると、煙が昇っているのが見えた。時折、火の手とともに爆発音が響いても来ていた。
「戦いか?」
とりあえず、煙の方向へとリオンは走っていた。戦いが起こっているのなら少なからず人がいるということだ。
それに、マユリからもらった力、“|自在術式《マルチスキル》”がどこまでできるのかも知らなければならなかった。


戦いが起きている場所まではそれほど離れてはおらず、リオンはすぐにたどり着くことができた。
戦っていたのは、魔物“ハイオーク”の群れと人間のおそらく騎士たちだった。
ハイオークは千年前も存在し、リオン自身もよく戦った相手なので分かったが、人間の幾人かは全く見慣れぬ物にまたがり荒れ地を疾走しながら戦っていたので本当に騎士なのかは、いまいち分からなかった。
車輪の二つ付いた金属の馬と形容すればいいのか、とにかくリオンの記憶の中と合致するものは一切なかった。
「なんだあれ? 千年の間にできたものなのか?」


そんな金属の馬にまたがる騎士の中でも、一際目を引く存在があった。
真紅の髪をなびかせ、剣を振るう女騎士だった。その動きは戦いというよりも華麗な舞を見ているかのようだった。
ハイオークたちの棍棒による一撃を金属馬を巧みに操り躱していき、すれ違いざまに醜い巨躯へと刃を斬りつけていった。
斬りつけられたハイオークたちは一瞬、大きく身震いさせたかと思うと、薄汚い緑色の血を噴き上げ大地へと倒れ伏していった。


だが、ハイオークたちの中でも一際大きな個体が、女騎士の前に立ちはだかり、他の個体とは違う大きな斧を振り下ろそうとしていた。
「危ない!!」
リオンは思わず、叫びながら飛び出していた。そのまま、手のひらを眼前にかざすと、灼熱の火焔が渦を巻きながら振り上げた両手ごと斧を焼き尽くしていた。
突然のことに、巨大なハイオークは一瞬動きを止めたが、すぐさま襲ってきた猛烈な痛みと熱さに凄まじい呻き声を上げながら後ろにもんどりうって倒れた。
「……っ! はあああああっ!!」
女騎士はわずかにあっけにとられたが、すぐに金属馬より飛び上がり苦しそうに呻くハイオークの喉元へ深々と剣を突き立てた。体が一瞬大きく跳ねそのままハイオークは動かなくなった。
他の個体たちも周りの騎士たちによってすべて倒されていた。


「はぁ…………はぁ……今のを、僕が?」
リオンは、自らの放った魔術の威力に驚いていた。千年前でもあそこまでの威力を引き出せるのはともに旅をしていた“賢者”でもなければ難しいものだった。
だが、何より驚いたのはそれだけの魔術を発動しても、魔力の消費がほとんど感じられないことだった。自分の魔力量は、とてもではないが賢者ほどはなくあんな威力の魔術を発動させれば枯渇はおろか足りないくらいだったのに、今はまだまだ十分な余力を残していた。


「加勢感謝する、私は王都ガランの近衛騎士団長、エアリアだ。色々と聞きたいことがある、一緒に来てもらえるだろうか?」
顔を上げると、そこに立っていたのは先ほどの女騎士だった。白銀の鎧に少なくない傷と、返り血を付けながらも凛とした美しさをたたえていた。
周りの騎士たちもこちらに視線を向けている。中には不信感を隠そうともしない者もいた。
(まあ、無理もないか。いきなり出てきてあんな威力の魔術を使ったんじゃ、怪しまれて当然か)
ここで反抗しても益はないと判断し、リオンは素直にエアリアの指示に従った。

「わかりました。僕はリオン、旅の者です」