20話 夜戦

目を開くと、タンタ村の跡地に戻っていた。
時計を見ると五秒ほどしか時間は経っておらず、どうやらマユリが気を利かせてくれたようだった。
「交代まではあと一時間ほどか……」
ぼそりと呟き、辺りを見回すがリオンの他には何もいなかった。


時折、小さくなる火に薪をくべるだけの作業にもだんだん飽きが来ていたころ、今までとは違う不気味な風がリオンの頬を撫でた。
「……っ!?」
咄嗟に手の中に魔道杖を出現させ、辺りを見回す。
漆黒の闇の中、わずかに動く何かが見える。
それは、ユラユラと不安定に揺れていてまるで生気を感じない。
「……気をつけろ、あれはネクロゴーストだ」
「っっ!? うおっ!?」
いつの間にか起きだして傍に来ていたエアリアに驚き、リオンは間抜けな声を上げてしまう。
「静かにしろ、奴らを使役しているネクロデーモンを探すんだ」
エアリアが小声でリオンを諫める。その目は闇の中に潜んでいるであろう敵を探るため周囲へ向けられていた。
リオンも杖に魔力を込めながら注意深くネクロデーモンを探す。
「照らして一気にあぶりだしますか?」
リオンの提案にエアリアも小さく頷く。
「頼めるか、この暗闇ではこちらが不利すぎる」
その言葉とともに、リオンの杖から光が放たれ周囲は一気に明るくなる。


今まで揺れているばかりだったネクロゴーストたちは光が広がるのに合わせてリオンたちから距離を取った。
その動きとともに、どこからか闇の魔術が放たれる。
「くっ!? そこかああ!!」
瞬時に身を翻し、抜き放った剣を魔術が放たれた地点へと、エアリアは振り下ろす。
だが、その鋭い一閃は標的を斬ることなく、地に叩きつけられた。
「サンダーショット!!」
エアリアに群がろうとしていたネクロゴーストたちに向け、リオンは雷の魔術を撃つ。
半透明な体が霧のように霧散するが、すぐに元の形を取り戻し今度はリオンへ向けて襲い掛かってきた。
すかさずリオンは空いている左手に剣を出現させ、地面へと突き刺すと取り囲むネクロゴーストへと雷の魔術を放つ。
「ボルトファング!!」
大地から迸る雷の奔流は霊体を引き裂き、放たれようとしていた闇の魔力を爆発させる。

ーーズム!!

くぐもった爆発音がネクロゴーストたちの体から聞こえ、そのまま霧散させ再生させることはなかった。
「自身の魔力を内部暴発させると消滅するのは変わらないか……」
一言呟きエアリアへ目を向けると、何体かのネクロゴーストの体を貫き剣へと魔力を注ぐ。
「はぁああああ!!!」
怒号とともに剣身へ魔法陣が浮かび上がり、そのまま突き刺さった敵を爆散させる。
だが、崩れた建物の影、焼け焦げた地面などあらゆる所から無数に現れるネクロゴーストの群れは二人が対処するよりも早くその数を増やしていく。
このままでは数の多さに呑み込まれてしまうのは明白だった。


「やはり本体を叩かねば無理か……」
エアリアが襲い来る霊体を爆散させながら吐き捨てるように呟く。
一体一体の強さはないので、まだいくらかの余裕はありそうだがその顔には苛立ちが見える。
(この数を操っているんだ、近くにいるのは確かなんだが……)
リオンはネクロデーモンの魔力を探っているが、周りを囲む霊気に邪魔をされ、なかなかその場所を特定出来ずにいた。
死霊を操る魔術は、魔力と霊気を混ぜ合わせるのでこういった状況に追い込まれると厳しいものがあった。


「リオン、私が一気に奴らの数を減らす。その隙に本体を特定してくれ」
エアリアが傍まで来ると一言だけ言って、剣へ魔力を込める。
そのまま地面へ突き刺すと剣身に浮かび上がった魔法陣が一際大きく輝き、二人の周囲に大きな炎のドームを形成した。
そのドームは大量のネクロゴーストを呑み込んでいき、その体を消滅させていく。まるで炎の壁に押しつぶされているかのような凄まじい光景だった。


「いた!あいつだ!」
生き残った何体かの中に、反応が合った。
なんと、自らを魔力と一体にしてネクロゴーストの中に入り込んでいたのだ。
すかさずリオンは飛び出し、剣を魔力と化したネクロデーモンへと突き刺す。

ーーキィィィヤアァァアアァ!!!

耳をつんざくような不快な金切り声を上げネクロデーモンがもがき苦しむ。
だが、リオンはそのまま構うことなく剣へ魔力を込める。
「おぉ終わりだああああ!!!」

ーーバヂヂヂヂ!!!

剣から、凄まじい雷撃が迸り突き刺さった霊体を貫通して天へと昇っていく。
そのまま、ネクロデーモンは体を一瞬大きく痙攣させ爆散していった。