21話 次なる町は

戦いから一夜明け、二人はタンタ村を出発する準備を行っていた。
最低限、犠牲者の弔いを済ませ“貨物機動車《カーゴバイク》”へと乗り込む。
口数は少ないながらも、話題は昨晩のことになる。
「昨日のあれは追っ手だったのだろうか?」
エアリアには、それが気がかりだった。
もし、ネクロデーモンが魔王軍によって差し向けられたものなら、これからの旅は非常に厳しいものになる。
移動する場所が割れているのは相当に不利なのだ。


「その可能性は低いですね」
リオンは欠伸を噛み殺しながら答える。
結局、あの後眠ることが出来なかったのでかなり目蓋が重い。
エアリアも似たようなものなのに、それを感じさせないのは流石、騎士と言ったところか。
「そうなのか?」
シフトレバーを忙しく動かしながら、エアリアが首を傾げる。
この辺りは、特に路面が荒れていて時折、車体がガタガタ揺れる。
「魔王軍にしては弱すぎますし、死霊種の魔物は使役するのには不向きなんです」


そう、ネクロデーモンやネクロゴーストなどの死霊種は、死人の無念や未練を糧として強さを増す性質があるためその力に非常にムラがあり、戦力として組み込みにくいのである。
「なので、タンタ村の恨みの念に集まってきた野生の魔物でしょうねあれは」
リオンは返事をしながらも、連絡が取れるようにと手渡された“魔道通信機《シェアガジェット》”の操作を覚えるのに悪戦苦闘する。
「そうか」
リオンの様子を鏡で見つつエアリアは少し安堵する。
とりあえず、常に敵の目を気にして神経をとがらせておく心配がないだけでも気分的に幾分マシだった。
窓を開けると心地よい風が吹きぬけてくる。
昨日のことで気持ちも落ち込んでいたのでこの爽やかさが嬉しかった。


「このまま、クウドへ向かうんですか?」
もう“魔道通信機《シェアガジェット》”をポケットにしまいこんだリオンが聞いてくる。
どうやら、機械の操作は苦手のようだった。
「早く覚えてくれよ」
若干呆れつつ、エアリアはハンドルを切る。
「先にミチターの町へ行く予定だ」
アクセルを踏み、“貨物起動車《カーゴバイク》”のスピードを上げる。
「そこに何かあるんですか?」
「最近、あの町で魔族が出入りしていると情報があるんだ」
エアリアの言葉にリオンは眉をひそめる。
魔族は人間を襲うばかりで取引や交渉の類は行わなかったはずだった。
そもそも、魔王の目的は人間を滅ぼし魔族の世界を作り上げること、人間と何か対話を行う行為にメリットがないのだ。
「それ、ほんとなんですか?」
リオンの声がわずかに低くなる。
怒りの中に不安も含まれているような声色だった。
人間たちが魔族の下に付くことがあれば、この先町や村に寄るのが困難になる。
「それを確かめに行くんだ。 魔王を早く倒したい気持ちも分かるがここは理解してくれ」
エアリアもそれを分かっているのか、ハンドルを握る手にいつの間にか力が入っていた。
「何事もないといいですね」
「ああ、そうだな」


不安そうな二人の心を映すかのように、先ほどまで晴れ渡っていた空がどんよりと曇ってきた。
「今日は、雨になりそうだ」
エアリアが窓を閉めながら、ぼそりと呟く。
先に待つ疑惑の町へとその瞳を向けて。