22話 疑惑の町

激しく降りしきる雨の中、ミチターの町に着いたのは昼の少し前くらいだった。
窓ガラスにぶつかる雨粒を眺めながら、リオンは不安をかき消すように息を吐く。
雨ということもあり、外へ出ている人はほとんどおらず、町は物悲しい雰囲気に包まれていた。


「まずは、町の中央庁舎へ行って町長へ話を聞く」
エアリアは“貨物起動車《カーゴバイク》”のスピードを落とし、路地を進んでいく。
総合庁舎までは時間もかからず着くことができた。
だが、異様だったのは建物の中へ入ってからだった。
まず、人の気配が感じられないのだ。
こういった施設は必ず受付がいるはずである。
だが、いるべきカウンターには誰もおらず、コンピューターのモニターだけが無機質に光を放っていた。
「どうなっているんだ……」
機械の操作を行っていたエアリアが顔を上げる。
「何かわかりましたか?」
リオンは建物の奥を伺うがそちらにも人の気配は感じられない。
「三日前からの記録が全く残っていないんだ」
「それって……」
リオンはこういった施設の業務内容がどんなものなのかは知らないが、三日も放置しておいていいものではないはずだ。
それなのにここは放っておかれ、町の人間も誰も気にしていない。


「やはり、魔族絡みか……」
その結論に至るしかなかった。
魔族がこの町で何かをしている、そのためこの施設からは人が消えたのだ。
何のために?
二人には見当もつかなかった。
だが、ここでいつまでも首をひねっているわけにもいかなかった。
周囲を警戒しながら、二人は階段を昇っていく。
二階、三階と昇って行ってもやはり人の姿はなかった。
どの部署の扉を開けても誰もおらず、なのにモニターは受付のときと同じように点いたままになっていた。
そして、そのどれもが三日前から何の記録も取られていなかった。
「ここも同じか……」
コンピューターを確認しながら、エアリアは呟く。
その顔には焦りの色が浮かんでいる。
タンタ村の二の舞はゴメンといったところか。
リオンも魔族の気配を探りながら、外の様子を伺う。
雨脚は先ほどよりも強まり、もう数メートル先も見えなくなりそうだった。
まるで、二人をこの建物から出さないとでも言いたげに。


だが、
「この雨、この建物の周囲だけに降り注いでいます!」
リオンは、わずかに見えた遠くの建物を見て叫んだ。
なんとその建物には影が見えていた。
屋上に置かれた給水タンクだろうか、その影がくっきりと出来ていたのだ。
「なんだと!?」
エアリアも窓へ駆け寄り目を凝らす。
確かに、遠くの建物の周りは晴れているように見える。
「この現象は一体なんだ……?」
リオンは周囲を探りながらも困惑していた。
千年前にはこんなことをする魔族はいなかった。
そもそも、この雨からは魔力を感じない。
(魔族が引き起こしているわけではないのか……?)


「とりあえず上に行こう」
エアリアに言われ、リオンは我に返る。
あまり考え込んでも仕方がない、上の階に行けば何か分かるかもしれない。
周囲の魔力の流れを警戒しつつ階段を上がっていく。
四階にも人はおらずいよいよ最後の部屋まで来た。
「ここは町長室だ」
そう言いながら、エアリアがドアノブにそっと手をかけゆっくりと回す。
ほんの少しだけ開けると隙間から中を覗き込み様子を伺う。
「……っ!!」
一瞬息を飲むと、勢いよく扉を蹴り開けそのまま剣を抜き放ち横薙ぎに部屋の中を斬り裂く。
「なっ!?」
あまりの速さにリオンはあっけにとられ出遅れてしまったが、すぐに部屋へ飛び込む。


その瞳に移ったのは、エアリアと斬り結ぶ見たこともない魔族だった。