30話 戦い終えて

「回復術式?」
想像だにしなかった答えにエアリアは素っ頓狂な声を上げてしまう。
「んんっ、いやしかしそれでどうやってあのバケモノを倒したんだ?」
咳払いで気恥ずかしさを誤魔化し改めてリオンへ訪ねる。
無限とも思える再生を繰り返すバケモノになぜ回復術式が効いたのか、いくら考えを巡らせてエアリアには分からなかった。
「あいつの再生能力が回復術式によるものだと分かったからですよ」
そう答えながら、吹き飛んだ実験体の残骸の中からあるものを摘まみ上げる。
「この瞳に使われていた赤い水晶体が力の核になっていたんでしょう」


エアリアはすでに光を失ってくすんだ赤色をしているそれを受け取りしげしげと眺める。
「こんなモノがあれだけの事象を起こしていたと?」
「ええ、それを核にして全身の生命力を異常活性させていたんですよ」
エアリアは核を返しながらまだ首をひねる。
実験体の再生能力の仕組みは分かったがそれがどうして回復術式を使うことに繋がるのか理解できなかった。
「回復術式での生命活性は結構繊細なんです、しかもあれだけ異常に活性化させるとなると余計に」
そんなエアリアを見てリオンが説明を始める。
「今回奴に使われた魔力はマリーベートの物ですから、それが発動している間に僕の魔力を不純物として混ぜると……」


そこまで言われてエアリアもようやく合点がいった。
「拒絶反応で暴走を起こす……」
「ええ、自分の傷を直すときに気が付いたんです」
「なるほどな、流石は回復師と言ったところか」
エアリアの言葉に照れたように頭をかくがその顔は嬉しそうに綻んでいた。
(こんな顔もするんだな……)
そんなリオンの顔を思わず、ジッと見つめてしまう。
一緒に旅をしてから、どちらかというと重苦しい表情ばかりしていたので以外に思ったのだ。


「あの……何か?」
リオンが顔をほんのり赤らめながら尋ねてくる。
「いや、なんでもないんだ。 しかし残念だったな、マリーベートとかいう魔族は逃がしてしまって」
ハッとして、エアリアは咄嗟に話題を変える。
すると、リオンはサッと顔色を暗くしてしまった。
「ええ、まあでも今回はむしろ良かったかもしれません……」
俯いて弱気な発言をするリオンにエアリアは少し違和感を覚える。
(あれだけ強い決意をしていたはずなのに……)
「私が気を失っている間に何かあったのか?」


その言葉に、リオンはゆっくりと口を開く。
「とある事情で僕はマリーベートやこの前のハルトに対して異常な殺意を抱くようになってしまっているんです」
悲しそうに呟くリオンの拳は固く握られ小さく震えている。
二人と対峙したときのことを思い出すと、怒りがふつふつと湧き上がってくるようだった。
「ほんとは何とか助けたいと思っているのに、そういった感情をどうしても抑えられないんです……」
絞り出すように言葉を紡ぐリオンに、エアリアは肩に手を掛け言った。

「なら、我慢しなければいいのさ」