34話 魔法陣

リオンの提案にエアリアは困惑しながらも頷く。
「それは構わないが私は回復系の魔術はあまり得意ではないぞ」
だが、リオンは彼女に魔術を使ってもらうつもりではなかった。
「構いません、術式を使う前の増加能力を使ってもらいたいんです」
エアリアはその言葉に一瞬首をかしげたがすぐに得心がいき、
「ん? ああ、魔法陣のことか? 君は使えないのか?」
「ええ、僕らの時代には存在しない技術ですから」
その言葉にエアリアは意外そうな顔をした。
しかし考えてみれば当たり前でもあった。
素のままであそこまで高出力の魔力を持つリオンが、魔術のブースター機能である魔法陣を使う必要はないであろう。
改めて目の前の少年のポテンシャルの高さに舌を巻くエアリアであった。


「ん? どうかしましたか?」
ジッと見つめてくるエアリアにリオンは首をかしげる。
「いや、なんでもないよ。 魔法陣だったね、どうすればいいんだ?」
リオンは虚ろな目をした人たちの中心に立ち、
「ここで魔法陣を部屋一面に展開できますか?」
それを聞いてエアリアは何をするのかが分かった。
「そうか、魔法陣に君の術式を走らせて全員を一気に解術するんだな」
「ええ、エアリアさんの術式発動方法を思いだして閃いたんです」


そう、リオンとエアリアの魔術の発動には違いがあった。
リオンの魔術は体内で精製した魔力を術式に通して発動するが、エアリアの使う魔術は魔力を術式に通した後さらに魔法陣に走らせることで発動させるのだ。
剣を床に突き立てながら説明をするエアリアにリオンはある疑問を聞く。
「でも、この魔法陣って広域展開用以外に使う意味ってあるんですか?」
リオンの疑問も当然ではあった。
エアリアの使う魔術は魔法陣で効果を増幅していたとしても正直低いと言わざるを得なかった。
「え? 私たちは魔法陣でブーストを掛けないと術式がまともに機能しないんだ」
その言葉にリオンは目を丸くした。
確かによく観てみれば彼女の魔力の波動はかなり弱かった。
千年前なら少し魔術を齧った程度の魔道師くらいのものだった。


(……そうか、前の魔王が死んでずっと平和が続いていたからか……)
散発的な魔物の出現はあれど、この千年近くは大きな戦いはなかったのだろう。
そうなれば必然的に魔術を使わなくなり魔力の出力も低下していく。
恐らく魔法陣はそれを補うために開発された技術なのだ。
だから、現代の人々は魔法陣無しでは魔術を使えないほどに弱ってしまったのだ。
「さあ、魔法陣の展開は完了したぞ」
そう言われ、リオンは術式を魔法陣に走らせて洗脳を受けた人々の解術を行った。


――二人は晴れ渡る空を見上げ、貨物起動車《カーゴバイク》に乗り込んだ。
解術した人々は町の病院に運ばれ、しばらくすれば無事目を覚ますことだろう。
何かお礼を、と言う町長の提案は嬉しくもあったが時間がないのも事実だった。
クウドで魔族と通じている者がいる。
この町での出来事も恐らくは知られていることだろう。
ならば急がねばならない。
二人は補給もそこそこにミチターの街を出発した。

貨物起動車《カーゴバイク》は疾走する、まるで大きな口を開いた怪物に向かっていくように――