35話 闇の喰い合い part1

――闇の中に蠢くモノが二つ。
「先輩と戦ったんだって?」
少しイラついたようなハルトの声が闇に響く。
「そんなコトでわざわざ呼びつけたのぉ?」
ねじくれた瑪瑙色の杖を弄びながらを行いながら、マリーベートはつまらなそうに呟く。
実験体のデータ収集を途中で切り上げてまで聞くような内容ではなかったのか早くもこの場から去りたいというのが態度にありありと浮かんでいた。

「おい、あんまり調子に乗るなよ……殺すぞ……」
マリーベートの首筋にナイフを押し当て、ハルトがぼそりと呟く。
そこには静かな怒りが込められていた。
「あの人は俺の獲物だ、勝手なことをっ!?」
すべて言い終わる前に凄まじい突風とともに吹き飛ばされる。
「あらぁ? いつリオンがあなたの獲物になったのかしらぁ?」
首筋から青白い血を流しながらも、一切怯むことなくマリーベートが告げる。
杖の先には疾風の魔術が渦を巻いている。
ハルトが少しでもおかしい動きをすれば、即座にその体を貫けるように。
「大体、あなたが私に勝てると本気で思っているのぉ?」


ハルトは悔しそうにマリーベートを睨みつける。
――手加減されている。
直感的にそれが分かった。
もし、彼女が本気だったら今の一撃で無残な肉塊となり転がっていただろう。
「ふざけるなよ……、ここで殺らなかったことを後悔させてやるっ!!」
超高速で一気に急上昇し、手にしたナイフに烈風の魔術を込める。
今まで転がっていた場所は疾風の魔術が叩き込まれ、球形に抉れていた。
「へぇ、やるじゃないのぉ」
間髪入れずに疾風の矢が幾筋もの尾を引きハルトへと襲い掛かる。
「遅いっ!」
そのすべてを烈風でかき消し、マリーベートの目の前に着地するとそのまま胸元へとナイフを叩き込む。
ドンッッ!!と爆発音と聞き違えるほどに凄まじい烈風の魔術の炸裂とともにマリーベートの体が床に転がる。
だが、ハルトはそれを確認することなくその場を勢いよく離れた。


その刹那、床に転がったマリーベートの体からおびただしい炎の触手が伸び、ハルトがいた場所に突き刺さった。
「あら、よくわかったわねぇ」
転がるマリーベートとは違う場所から声が聞こえる。
「ふん、その嫌味な性格を直さない限りはな」
見通せぬ闇の中へと声を投げかけ、ハルトはナイフから風の刃をいくつも飛ばす。
その内のいくつかが弾かれたのを見て、その方向へと一気に突っ込んでいく。
「はぁああ!!」
その勢いのままナイフに烈風の魔術を螺旋状に纏わせ突き出す。
「っ!?」
だが、その一撃は虚空を空しく貫きハルトは無様に床を転がった。
一瞬見えたのは空間に自動展開された防御術式だった。
背後に迫る疾風の刃と共にマリーベートの声が響く。

「まだまだ甘いわねぇ、ここまで読んでようやく二割程度よぉ」