39話 カレン、商売開始 part1

カレン、と名乗った少女は片付けが終わると一回り大きくなったカバンを背負いなおすと二人とは反対方向に去って行こうとした。
「迷惑かけて悪かったっス、お礼をしたいんスがお金がないのでこれで失礼するっス」
そう言って歩き出そうとするカレンをリオンが呼び止める。
「あ、待って!」
カレンが不思議そうな顔で振り向く。
「えっと……なんスか?」
「え……あ、いや……」


呼び止めたはいいがリオンは何を話していいか分からなかった。
事情もよく知らないで、かわいそうだからと少女を助けたがお互いに素性も分からないのだ。
そんな関係性で会話などあるはずもなかった。
だが、ここで彼女を行かせてはいけないとリオンの直感が告げていた。
「……? 特に用が無いならウチは行かせてもらうっス」
小さく微笑むと再び歩き出そうとするカレン。
「……あ! そうだ、君の商品をいくつか買わせてくれよ!」
パァっと顔を輝かせると、踵を返してカレンが駆け寄ってきた。
いつ取り出したのか両手にはすでに商品が握られていた。


「ホントっスか!? 嬉しいっス! ゆっくり見て行って欲しいっス!」
ニコニコ顔で商品をカバンから追加で取り出そうとするカレンの傍で苦々しい顔を浮かべている者が一人。
「おい、リオン……私たちにゆっくりする時間はないんだぞ……」
呆れたようなエアリアの視線を受け、リオンは顔を逸らした。
こうなると気が付いたのは言った後だったが、ここまで嬉しそうにするカレンを見てもはや、やっぱりやめるとは言い出せなかった。
「……すみません、でも放っておけなくて……」
「はぁ……あまりいいことだとは思わんがな……」
言葉の意味はよく分からなかったが、それを尋ねる前にリオンは目の前に出された商品に面食らった。
「どうしたっスか? さあさあ色々見て欲しいっス」


出された商品の数々をリオンは見てみるがそのどれもよく分からない物ばかりだった。
「これは?」
その内の一つを手に取り尋ねる。
掴んでいるのは魔道通信機《シェアガジェット》と同じくらいのサイズのカードだった。
「それは術式符《スキルカード》って言うっス」
束売りしてるっスよ、と言ってカバンからケースに入れられた術式符《スキルカード》の束を出してきた。
「いや、先にどんな物か聞きたいんだけど……」
「あ、そうっすよね。 申し訳ないっス」
しまったといった顔で謝るとカレンは手にしたカードの説明を始めた。


「これはあらかじめ術式を書き込んでおいて、イザという時にすぐに魔術を発動出来るようにするという画期的な品っス!」
カレンの熱い口調とは裏腹にリオンの顔つきは微妙なものだった。
「……それって普通に魔術を発動するのと何が違うんだ?」
「う……そ、それは……」
カレンは言葉に詰まった。
実際、術式を別の媒体に用意していてもあまり発動速度に変わりはない。
しかもリオンのような高位の術者ともなればなおさらだった。
「じゃ、じゃあこれはどうっスか?」
望み薄と判断したのかカレンはカバンから新しい商品を取り出す。

「これこそウチ自慢の一品っスよ!」