40話 カレン、商売開始 part2

取り出されたのは、こぶし大の金属の塊だった。
「爆裂鋼《ボムスチール》って名前っス、聞くより見るほうが早いっス」
そう言ってカレンは二回りほど小さい爆裂鋼《ボムスチール》と呼ばれた金属をポケットから取り出すと地面へ置き、少し距離を取り二人へ向き直った。
「申し訳ないっスがお二方どちらか、あれに魔力を注いで欲しいっス」
それを聞いたエアリアが答えた。
「私がやろう」


地面に置かれた爆裂鋼《ボムスチール》に近づこうとするエアリアにカレンが呼びかける。
「あっ、あんまり近づかないほうがいいっス」
「……?」
不思議そうな顔をしながらも距離を取り、爆裂鋼《ボムスチール》へと魔力を注ぐ。
少しとはいえ離れた距離に、純粋な魔力を飛ばせるのは流石に王国お抱えの騎士と言ったところか。

―ーパァン!!

魔力を注がれた爆裂鋼《ボムスチール》は乾いた音を立て爆発を起こした。
大きさがそれほどでもなかった為、破片が飛び散ることはなかったが、その音に驚いた通りすがりの住人たちが訝しげな顔を浮かべながら視線を向けてくる。
「どおっスか? 魔力を注ぎこむと爆発を起こす金属っス」
周囲の冷ややかな視線にも気づかずに鼻息を荒くして、カレンは手にした爆裂鋼《ボムスチール》を進めてくる。
「う~ん……これを使うくらいなら魔術でいいんじゃない?」
リオンの言葉にカレンの笑顔が固まる。
だが、これを進められてもリオンには無用の長物なのでそう言うしかなかったのだが。
魔術が使えるならわざわざ爆発するだけの金属に頼らずとも問題ないのだ。
魔術が使えず、魔力のみを持て余している者がいるなら有用かもしれないが、あいにくリオンはそんな人物にあったことはない。
つまるところ使い道のない物だった。


「はぁ……ちょっと外すぞ、すぐに戻る」
呆れてしまったのかエアリアは二人から離れ、近くの店に入って行ってしまった。
「それなら、今度はコッチの品はどうっスか? これこそ自慢の一品ってヤツっス!」
先ほどと似たようなことを言いながら、新たな商品をカレンは取り出してくる。
手にしているのは手の中に収まるくらいのサイズの筒だった。
冷たい光沢を放つ無地の見た目からは用途は思いつかなかった。
「これは?」
至極当然の疑問にも待ってましたとばかりにカレンは答える。
「よくぞ聞いてくれたっス! これは魔力保持筒《マナコンデンサ》っス」


魔力保持筒《マナコンデンサ》と呼ばれた筒から細い線を一本引っ張り出すとリオンのほうへ向ける。
「これに魔力を込めて欲しいっス」
言われるがままにリオンは魔力を線へと込める。
すると筒の側面につけられた目盛りが光り始めた。
「あ、もう大丈夫っス。 ありがとうございまス」
そう言ってカレンは線をしまうとそのままリオンに魔力保持筒《マナコンデンサ》を手渡す。
「これは魔力をそのまま保存して携行できる道具っス、これは便利っスよ!」
「魔力切れのときには使えるか……?」
手にした筒の使い道を考え呟いた一言にカレンは飛びついた。
「そ、そうっスよ! そんな時こそ、その魔力保持筒《マナコンデンサ》が役に立つっス!」
ひときわ大きい声で推してくるところを見るに、どうやら彼女自身持て余していた道具のようだった。


「……はぁ、まあいいや、これを一つもらおうかな」
リオンは少々呆れながらも魔力保持筒《マナコンデンサ》を購入することにした。
他の物に使い道を見いだせなかった、というのが正直なところだが。
「ホ、ホントっスか!? ありがとうございまス!」
そんなことを思われているとはつゆ知らず、泣きそうなほど喜んでいるカレンを見てリオンは少し良心が傷んだ。
だが、

「おい、ここで商売していいって誰が言ったんだ?」