44話 揺れる街 part1

「ぎゃああああ!?」
通りに響き渡る叫び声に、通行人は何事かと振り返る。
真紅の起動車《バイク》がその通行人たちの耳に、叫びと爆音を残し疾走していく。
「お兄さん! 一回止めて下さいっス!!」
「止め方が分からないんだ!」
カレンはリオンの返答に信じられない物を見たような顔をする。
まさか、運転の仕方も分からないままこの大型車に乗っているなんて、命知らずもいいところだった。


「右足のペダルを強く踏んで、右手のレバーをちょっと弱く握ってくださいっス!」
カレンはブレーキの掛け方を指示し停車させようとする。
リオンもその指示に素直に従いブレーキを掛ける。
少しずつ起動車《バイク》のスピードが下がっていき、やがてその動きを完全に停止させた。
「はぁ……お兄さん、よく運転しようと思いまシたね……」
カレンは驚いたような、呆れたような顔をリオンに向ける。
起動車《バイク》にまたがったまま息も絶え絶えといった様子のリオンは、その声に答えることは出来なかった。


だが、時間は待ってはくれなかった。
遠くの方で起動車《バイク》の爆音が響いてくる。
かなりの数がこちらへ向かって来ているので恐らくは追手だろう。
「チッ……どうするか……」
ここにいてはすぐに捕まってしまうが、だからといってこの暴れ馬を乗りこなせるとはとても思えなかった。
「あの……ウチが変わりに運転シましょうか……?」
悩むリオンの耳にその言葉が飛び込んできて、音がするほどの勢いで顔を向ける。
「運転……出来るのかい……?」


カレンは妙に嬉しそうな顔をしながら、起動車《バイク》に跨る。
その姿はまるで、そうあるべきかのように自然だった。
「ええ、ウチこう見えて結構自身あるっスよ」
アクセルを吹かしながらカレンが答える。
迷う必要は無かった。
リオンが後ろに跨ると、すかさずカレンが起動車《バイク》を走らせる。
凄まじい速度を出しながらも先ほどような不安定さは一切感じさせることはなく、むしろ速度を上げれば上げるほど安定するかのようだった。
「カレン、大丈夫か?」
「ええ、結構なじゃじゃ馬っスが、これなら問題ないっス」
自身たっぷりに答えたカレンは、手足を忙しなく動かしながら狭い路地を器用に走り抜けていく。


だが、追手も驚異的な技量で二人を追いかけてくる。
何より脅威なのがあちらは壁面を走行できる点だった。
速度は圧倒的にこちらが上なのだが、そのアドバンテージを奪われてしまうため、結局一進一退になってしまう。
「くそっ、なんなんだあいつらの起動車《バイク》……」
後ろを振り返りながら、リオンが毒づく。
「……あれはクウド最新型の垂直起動車《ジャイロバイク》っスね。 渋滞知らずって触れ込みだったっス」
「インチキだ……」
リオンはげんなりしながらも追手に向かって威嚇の魔術を放つ。
だが、その手がカレンの言葉に止まった。
「このままだとマズイっスね……」
「どうかしたのか!?」
カレンは起動車《バイク》を操りながらボソリと呟く。

「このままだと、ハイウェイに入ってしまうっス……」