46話 揺れる街 part3

「……ふん、ガランの騎士と言えどこの程度か」
未だ凄まじい熱気を放つ通りに一人呟く。
「しかし、どうしたものかな……死体も残らないんじゃないか……」
受けた任務は標的の“拘束”であって“抹殺”ではない。
なのにこの火力では死体はおろか腕の一本も残りそうもない。
「どう報告したものか……」
男の顔には中間管理職の悲哀が浮かんでいた。


「だったらその心配を無くしてやろう」
男の頭上からそう声が聞こえてきた。
「っ!?」
男が咄嗟に身を翻すとそこに赤熱化した剣が叩き込まれた。
地面をその高温で溶かしながら深々と突き刺さった剣を抜き、男の眼前に構えたのは先ほど炎に飲まれたはずのエアリアだった。
目立ったダメージも無く目の前に立つ騎士に、男は安堵したような、呆れたような顔を浮かべた。
「はは、まさか生きていたとはね」
「心外なセリフだなっ!!」
男の軽口に横薙ぎの斬撃で返す。
男もそれを後ろに跳んで躱すと、その反動を使い自身の剣をエアリアに突き出す。
エアリアは剣身で突きを逸らし、勢いのまま突っ込んでくる男の顔に拳を叩き込む。
「がっ……」
男は避ける間もなく直撃をくらい反対方向へ転がっていく。


「痛ってぇ……労災降りるかこれ……?」
鼻血をボタボタとこぼしながらも、軽口を止めることなく立ち上がる。
その足取りはまだしっかりしており、この戦いがまだ終わらぬことを物語っていた。
「今引けば、これ以上痛い目には遭わないぞ」
男は鼻を拭い血を止めると、エアリアを睨みつける。
「ここでおめおめと引き下がったら、痛い目どころか命がなくなるんでねっ!」
手にした剣を上段に振り抜き、火炎の矢をいくつも飛ばしながら男が叫ぶ。
矢はエアリアの元へまっすぐに向かっていく。
「とりあえず手足を潰させてもらおうか!」
躱そうと身をよじったエアリアの動きを予測していたように、火炎の矢は急に動きを変えその腕や足に集中して飛来する。


「その程度っ!!」
だが、エアリアはその動きに反応し、避けようとした体へ急制動を掛け、剣から炎を竜巻上に発生させ火炎の矢を全て防御、吸収する。
「はぁっ!!」
そのまま、剣の振りに合わせて動く炎の渦を男へ向けて放つ。
「クソッ!!」
男は一言吐き捨て、剣から水の波動を放ち、向かってくる灼熱の渦を打ち消す。
「おうらぁっ!!」
ぶつかり合い蒸気を吹き上げる二つの魔術を横にしながら、男は水を刃上に剣へ纏わせエアリアへ斬りかかる。
炎と水の力が互いに斬撃となって斬り結ばれる。
剣と剣がぶつかる度に視界を遮る蒸気が発生する。


「同じ手を使う気か? 芸の無い奴め」
そう言ってエアリアは炎の魔術の出力を高める。
すると視界を塞ぐ蒸気の幕が上昇気流で上方へと勢いよく昇っていった。
「はぁあああ!!!」

エアリアはしっかりと男の姿を、その紅い瞳に捉えると袈裟懸けに剣を振り下ろした。