49話 揺れる街 part6

「お、おい! なんだ……あれ!?」
リオンは素っ頓狂な声を上げる。
その凄まじい威容に、まるで山に向かっていく虫のような気分になる。
「あれ……最新の軍用起動車《メガロバイク》ッス!!」
猛スピードで迫りくる鋼鉄の山に、流石のカレンも怯んだのか若干スピードが落ちる。
「っ!? カレン! 追いつかれる!!」
その隙に灰色の起動車《バイク》が辺りを取り囲む。
このままでは自分たちも、迫りくる巨体に潰される危険性もあるというのにその表情には一切の変化も見られない。


「くっ……お兄さん、私に“命”預けてもらえますか」
周囲を取り囲む追手を一瞥し、カレンが一言呟く。
その瞳は真剣そのものだった。
「ああ、全てをカレンに任せる。 好きにやってくれ!!」
雷の魔術を右を走る起動車《バイク》に向かって放つ。
もう威嚇がどうのとは言ってもいられなかったが、せめてと思い出力は低めに
したので派手に爆発することは無く、そのまま動きを止めるのみになった。
「しっかりつかまっていて下さいっス!!」
一台分空いた隙を縫うように車体を滑り込ませると、そのまま中央の分離帯ギリギリまで寄ってアクセルを強く
回す。

――グゥァオオオオオオオオオンンンン!!!!

エンジンが強烈な唸りを上げ、メーターもレッドゾーンを指している。
「このまま、アレの横をすり抜けまス!!」
とんでもないことを言い出すが、もはや乗りかかった船。
「命を預けると言ったんだ、構うことは無いさ!!」
その言葉に起動車《バイク》が答えるようにもう一度唸り、軍用起動車《メガロバイク》へ猛スピードで近づいていく。
追手も二人と同じように分離帯へ近づくが、技量が足りないせいで何台かは激突しそのまま派手に転がりながら爆発していく。
「……あいつら、イカレているのか……」
それを見ているはずなのに動じることなく走り続ける姿にリオンは戦慄する。
「無視っス!! 口開けてると舌ぁ、噛むっスよ!!」
慌てて振り向くと、巨体はもう目の前だった。


「行くっスよおおおお!!」
叫ぶカレンの腰に手を回し、必死にしがみつくリオン。
傍から見れば情けないことこの上ないがそんなことを言っている時ではない。
真紅の車体が軍用起動車《メガロバイク》の真横スレスレを通り過ぎる。
だが、その巨体が幅寄せを行ってきた。

ーーギャリリギャリギャギャリリ!!!!

尋常ではない火花を散らしながら轟音が響き渡る。
軍用起動車《メガロバイク》の巨体が中央分離帯に擦り付けられ、その壁にどす黒い焦げを着けていく。
「危ないっス……あと少しでミンチだったっスね……」
「ああ……だが追手の連中は……」
巨体に隠れ見えないが、爆発音が連続して起こっている。
どうやら、軍用起動車《メガロバイク》は仲間であるはずの灰色の起動車《バイク》を勢い余ってすり潰してしまっているようだった。


だが、その狂行もすぐに収まり鋼鉄の山は動きを止めた。
「ふぅ、あの図体だ、もう追ってこれないだろ」
そう呟いたリオンだったが、その認識は甘いことをすぐに思い知ることになった。
なんと車体を切り返すことなくバック走行のままこちらへ迫ってきたのだった。
「そんなのアリかよおお!?」

真紅の起動車《バイク》がハイウェイを疾走する。
夜はまだ明けそうに無かった。