50話 揺れる街 part7

「なんで後進であんな速度が出るんだ!?」
リオンは文句を言いながらも、迫りくる巨体へ向け雷の魔術を連続して放つ。
だが、その雷撃も分厚い走行に阻まれ、表面に小さな爆発を起こすのみにとどまってしまう。
「こういう状況に対処するため、前も後ろも無い造りになっているんス」
対魔術装甲を施しているから効果うすいっスよ、と付け加えカレンはアクセルを捻る。
スピードを上げた起動車《バイク》のすぐ後ろで爆発が起こる。
軍用起動車《メガロバイク》が放った魔術攻撃だった。


「くっそ、向こうだけ攻撃出来るなんて……」
「まぁ、そういうコンセプトっスからね」
リオンのボヤキに答えながら、カレンはとめどなく撃ち込まれる魔術攻撃を躱していく。
通常の魔術戦とは違い、一発撃つごとに若干のタイムラグが発生しているのが唯一の救いだった。


「あの威力だとチャージに時間が掛かるから何とか避けられるっスね……」
「とはいえ、このままじゃジリ貧だぞ、何とかしないと……」
呟きながら敵の威容を見上げ、手はないかと思案する。
だが魔術を撃っても効果は無し、物理攻撃なんてもっての外。
つまるところ手が無かった。
「どうしまス、あれから逃げ切るのはかなりムリがあるッスよ……」


未だ追手が出てくるハイウェイ降り口を苦々し気に睨みながら、カレンはアクセルを捻る。
唸りを上げながら起動車《バイク》は魔術攻撃を躱す。
そのときリオンは見た。
驚くべきことに魔術攻撃は味方を巻き込んでいる。
「嘘だろ……」
「あちらさんも容赦ないっスね……」
そのとき、リオンの脳内にあることが閃いた。
(……もしかしたら、いけるか?)
悩む時間は残されていない、リオンはカレンに聞く。
「なぁ、あの爆発する金属、今持ってるか?」
「え? 爆裂鋼《ボムスチール》っスか? お腹のポッケに少しあるっス」


そう答えた瞬間、ポケットを勢いよくまさぐられた。
「きゃあああ!?!?!?」
突然のことにカレンは混乱し叫ぶ。
「なにするっスか!? エッチ!!」
それでも起動車《バイク》の操作に影響しなかったのは流石といったところか。
「言ってる場合か! 後で金は払う!!」
盛大に誤解を招きそうなセリフを叫ぶリオンの手には、件の爆裂鋼《ボムスチール》が握られていた。
「何する気っスか!? アレにそれは意味ないっスよ」
顔を少し赤らめながら、カレンは爆裂鋼《ボムスチール》を構える同乗者に聞く。
「まぁ見てな」

そう言ってリオンは軍用起動車《メガロバイク》目掛けて爆裂鋼《ボムスチール》を思い切り投げつけた。