51話 揺れる街 part8

リオンの手から放たれた爆裂鋼《ボムスチール》は標的に届くことなく空中で空しく爆発を起こす。
「なるほどね……」
「何がっスか?」
一人納得したような口調のリオンにカレンは首を傾げる。
だが、その顔は再び真っ赤に染まる。
リオンがまたポケットに手を突っ込み、爆裂鋼《ボムスチール》を取り出したのだ。
「せめて一言いって欲しいっス!!」
「もらうぞ!!」
もはや手遅れの報告を口にし、涙目のカレンの視線を浴びながらリオンは爆裂鋼《ボムスチール》に魔力を込める。
すかさず、先ほどより強く投げつけると、今度は軍用起動車《メガロバイク》の下部に吸い込まれるように転がっていった。
「やっぱり意味ないっスよ……」
カレンがそう呟いたそのときだった。

ーーガァァァンン!!!

強烈な爆発音を響かせながら軍用起動車《メガロバイク》の右前輪が外れた。
そのまま勢いを殺せず、中央分離帯へ激突し突き破ってようやく停止する軍用起動車《メガロバイク》。
「なるほど、シャフトを壊したって訳っスか……」
感心したようにカレンが呟く。
「ああ、車軸なら少しは脆いと思ってな」
そう、あれだけの巨体を一手に支え、さらに猛烈なスピードで走っていれば車軸への負担は相当な物になる。
「ほんの少しでも歪められれば、後は自重と速度でああなるって訳」
リオンは得意げに呟く。

だが、追跡は未だ終わらない。
動かなくなった軍用起動車《メガロバイク》の後ろから次々追手の起動車《バイク》が現れる。
「しつこいっスね!」
カレンが毒づきながらアクセルを捻る。
「このままじゃだめだ! ハイウェイを降りよう!」
そう言ってリオンが指さす。
その先は壁だった。
「何言ってるんスか!?」
「この壁を超えて下道に降りる!」
とんでもないことを言い出したリオンをカレンは否定する。
「ムリっスよ!! 仮に跳べても落下の衝撃でバラバラっス!!」
だが、リオンの目は真剣だった。
「僕を信じろ」
しばし逡巡したが、その瞳と言葉に賭けることにした。
「うう、分かったっス! 行きますよおおお!!」
叫びながらアクセルを全開にするカレン。
壁に激突するその間際、ハンドルを思い切り上へ持ち上げる。


その瞬間、真紅の起動車《バイク》は空を跳んだ、いや飛んだ。
「うおお!? どうなっているんスかああ!!」
その叫びの答えは後ろにあった。
リオンが風の魔術を使い、起動車《バイク》を浮かせていたのだった。
「へへ、名付けて“フライトウインド”ってところかな」
そのまま落下の勢いを相殺しながらゆっくりと着地し、下道を走り出す。
上を見ると流石に壁を超えて追いかけてくる様子は無かった。
「……くく、ははははは!!!」
「ふふ……あははははは!!」
二人はようやく追手から逃れられた安心感からどちらともなく笑い出す。

だが、その声を引き裂くように一台の起動車《バイク》の走行音が近づいてきた。