俺の名はクラウディウス。勇者なんてもんをやってる。
ま、もうすぐ定年だがな。
俺はもうすぐ四十五になる、勇者の定年はそれが相場だ。
頼りないが弟子に痕は任せるとしよう。
「クラウディウスさーん!」
お? 来たなバカ弟子が。
「どうした?」
「倒して来ましたよ! ビッグボア!」
担いでいるのは巨大な|猪《ボア》の頭。
「おお、やったじゃないか。で? 胴体はどうした?」
「消し飛びましたけど?」
俺は一発ぽかりと弟子のユリウスの頭を叩いた。
「痛い! 何するんですか!」
「ちゃんと狩った獲物はきちんと全身持って帰るよう言っておいただろうが! どうしてすぐ破壊系呪文に頼って消し飛ばすんだお前は!?」
泣いたフリをするユリウス。
「だって……そうしないと倒せそうになくて……」
「だから毎日剣技を教えてやってるだろうが!」
「剣技なんて難しくて出来ませぇん!」
「泣き言言うな! もうすぐ俺は定年だ! 次はお前が勇者として魔王と戦うんだ!」
「魔王だって呪文で……」
俺はまたぽかりとユリウスの頭を叩いた。
「呪文を封じられたら?」
「いてて……えっと……逃げる?」
「はぁ……お前なぁ……」
思わずため息を|吐《つ》く。
「いいか? 魔王は勇者を逃がしてなんてくれないんだぞ」
「そんなじゃあどうすれば……」
「いいから剣技を覚えろ、ほら行くぞ」
そう言って剣を投げ渡す。
「あぶなっ!?」
難なく受け止めるユリウス、こういう才能はあるのにな。
「行くぞ! 剣技・凪……」
「け、剣技・暴風!」
剣と剣がぶつかり合う。激しい金属音の連続。
水の剣技と風の剣技がぶつかり合う。凪に対して暴風を選ぶのは良いチョイスだ。
センスは悪くないんだこいつは、ただ……。
「はぁ……はぁ……」
致命的に体力が無い。
数分、剣を打ち合っているがもうばてて来ている。
体力なさすぎだろ。一旦、ユリウスから剣を叩き落とし、修行を中断する。
「はぁ……なんすか……クラウディウスさん……?」
「ユリウス、お前はまず走り込みからだ」
「そんな初歩から!?」
「いいからほら、そこの森を十周」
「そんなぁ」
ひぃひぃ言いながら森の道を走って行くユリウス。
もうしばらく引退は出来ねぇかなぁ……と心配になる俺だった。
数日後、ムキムキになったユリウスの姿が!
「とかなってたらいいのになぁ……」
「え? 何です? クラウディウスさん」
「何でもねぇよ、それよりほら日課の走り込み」
「ひぃ」
森へと駆けて行くユリウス。しばらくしてアイツがサボってないか見に行く事にする俺。
しばらくして森の奥に居たのは。
「はぁ、お前らはいいよな、走っても疲れないんだろ?」
モンスターの死骸に話かけるユリウスの姿が!?
「お前、何して……」
「え? クラウディウスさん!? いや違うんですこれは……」
俺はユリウスの下へと近づいた。
「ひぃ」
叩かれると思ったのか頭を庇うユリウス。
俺はユリウスの横を抜け、モンスターの死骸を拾う。
「これ、お前がやったのか? これ剣技でやっただろ?」
「え、あっはい。俺やっぱり、走り込みよりモンスター倒してる方が性に合ってると思って」
「……合格だ」
「え?」
「合格だ! お前を勇者として認める!」
しばし無言になるユリウス、そして。
「やったー! これで俺が勇者だー! 待ってろ魔王! お前の頭をちょん切ってやる!」
なんか言ってる事が怖い。
こいつを世に放って大丈夫なんだろうか。心配になってきた。
さっきまで自分が殺した死骸に話しかけてヤツだしな……。
俺はどうやらヤバい奴を育てちまったらしい。
「なんか心配だから俺も付いて行く」
「え? クラウディウスさんが? やったー! 百人力ですよー!」
俺は引退後はモンスターを狩りながら、農業でも始めようと思っていたのに。
どうしてこうなった。
俺はこうして勇者を引退し勇者のパーティの戦士となった。
こいつと二人旅……ホントにどうしてこうなった。